クリスタルを地中に飲み込んだ大地震から4年…
ようやく人々の暮らしも落ち着きを取り戻し始めた頃…
風の町・ウル。
その郊外に広がる小さな森は大地震の被害は免れ、以前と変わらない穏やかな時間が流れていた。
「え?なーに?」
小鳥のさえずりと木々のざわめきだけが響く森にあどけない声が問いかける。
「なにかあるの?おくのほう?」
森の小道で小さなエルフの少女が木々を見上げる。
その問いかけに答える様に木々のざわめきは大きくなった。
すると、少女は危なっかしい足取りで奥へと進んで行く。
――森の入り口で木に寄りかかりつつ本を開いていたユリアスは、ふと顔を上げる。
「にーさま、にーさまー。」
森の奥から聞こえる呼び声に小さくため息。
「また…何かおかしなものでも見つけたか?」
苦笑しつつ本を閉じ立ち上がった。
奥へと伸びる小道の先には小さな泉がある。
そこの茂みに見え隠れする小さな妹の姿にユリアスは声をかける。
「どうした?ユリディナ。」
すると茂みから這い出て来たユリディナはペタンと座り込み困った様な顔を見せた。
「あのね、おひとがいるの。」
「何…!?」
ユリディナの言葉にユリアスは慌てて茂みを覗き込む。
そこには頭から血を流して倒れる少年の姿があった。
「ふぉっふぉっふぉっ…また何とも珍しい子供を拾って来たのぉ。ユリアスよ。」
家に戻り暖炉の火を黙って見つめるユリアスに、長老であるトパパが声をかける。
「ん…ああ、あの少年か。」
短く答えユリアスは考え込む様に顎に手をあてる。
その様子を眺めつつトパパはお茶をすする。
「強い風の守護を受けておる。いずれ大きな運命に導かれるじゃろうて…。」
「だが…何かがおかしい。あの少年、心が別れている。きっと双子だ、片割れを探さねば…。少し様子を見てこよう。」
そう言いつつ部屋の扉を開けた時…
「きゃうっ!」
勢い良くユリディナが転がり込んできた。
「ユ…ユリディナ!大丈夫か?どうかしたのか?」
慌ててユリアスが抱き上げるとユリディナは頬をこすりつつ奥を指差した。
「おとこのこがね、め、さましたの。」
見るとユリディナが出てきたのだろう。少年の居る部屋のドアが少しだけ開いていた。
ユリアスが中を覗くとベッドで上半身を起こした少年が戸惑った様子で辺りを見回していた。
「気が付いたか?大丈夫か?」
ベッドにユリディナをおろし、ユリアスは窓のカーテンを開ける。
「え…あ…。」
「おきずだいじょーぶ?おかおのおきずいたそう…。」
ユリディナは少年の前髪に隠れた傷跡を気にかける。以前の傷なのだろう。少年の右頬には目にかけて大きな3本の傷跡があった。
大丈夫…そう小さく答え少年はユリディナの耳に触れる。するとユリディナはくすぐったそうに微笑みかけた。
「…耳…とがってる…。」
「エルフの血を引くものはそうだ。知らないのか?名は?どこの村の子だ?」
2人のやり取りを微笑ましそうに見つめていたユリアスは少年に問いかける。
「名前…名前は…ロト。ロト=クラウザー。何処……あれ……?」
自分の名を名乗り少年…ロトは言葉に詰まらせ、その様子にユリアスは顔を曇らせる。
「…?」
「…無理をしなくて良い。ゆっくり思い出せば良い。」
ユリアスは優しくロトを抱きしめ軽く背中をたたく。それに緊張の糸が切れたのか…ロトは堰を切ったように泣き出した。
―それから月日が流れ…。
余程、怪我をした時のショックが大きかったのか…ロトの記憶は一向に戻らず何の手がかりも掴めぬまま10年が経とうとしていた。
そんなある日。ロトの部屋にユリディナが顔を出す。
「最近、カズスの西にある"風の塔”の泉でね、ロトに良く似た人見かけるの。」
その言葉にロトは黙り込む。
風の塔とはカズスの西の砂漠にある岩場の事だ。風化した石灰岩が風に削られ細く尖ったその外見からそう呼ばれている。そして、そこは不思議な効能を持つ泉が湧き出している所でもあった。
「ちょと近寄り辛い怖い雰囲気はあるんだけど…きっと良い人。だって小鳥達が近寄っていくんだもの。今日も泉の水、汲みに行くから居たら声かけてみるね?ロトの事…もしかしたら知ってるかもしれないから。」
そう言って出て行ったユリディナを見送りつつロトは考え込む。
「…痛っ…。」
突然襲った頭痛にロトは思わず座り込み、小さくため息をついた。
「まいったなぁ…。」
ゆっくり立ち上がり窓辺に進み窓を開ける。…ロトには一つ気になってる事があった。
何かを思い出そうとすると、今のように耐えられない程の頭痛が襲う。自分を知っている人が居たとして…その人を思い出すことが出来るのだろうか。
もし、それがユリアスから聞いた通りに兄弟だとしたら…思い出せなかったら、相手を傷つけてしまうのではないか?
そんな不安があった。
…何処までも広がる澄み渡った青空…それに向かい手を伸ばし目を細める。
「兄弟…か…。」
運命の歯車が動き出す。
すべては風が導く母なる大地へと…。
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