……星が動き運命の輪が回り始める……
満点の星が空を覆いつくし、それが鏡の様な湖面に映し出される。
その光景を見つめ、一人の占星術師は小さく呟く。
「遠い昔……封印されし緋が新たな器を得て目覚める……再度、訪れる狂気……。」
そこで占星術師の背後から漆黒の槍がその身体を貫く。
「……そこまでにして貰いましょうか。もうじき準備が整う。邪魔が入ると面倒だ。」
背後からの声に占星術師が振り向くと、そこには黒いローブを纏った魔導士が立っていた。
「魔王……の影………。」
占星術師が苦しそうに呟くと、魔導士は口元に笑みを浮かべ槍を引き抜く。
そして、地に倒れた占星術師を一瞥し、止めを刺すようにその身体に槍を突き立てると彼女が動かなくなった事を確認し姿を消した。
その少し後、占星術師の指先が僅かに動く。
「……奢りは……自身に……破滅をもたらす……。」
静かに占星術師は笑みを浮かる。
「私の死を……確実に確かめなかった事が……貴方の破滅の始まり……。」
そう言って身体を起こした占星術師の背に真っ白な光の翼が現れ、その身体を貫いた漆黒の槍は霧散し消える。
「……我が命を持って……星よ……動け……。」
占星術師の声に反応するかのように湖面が淡い光を放つ。
「……星よ……知らせて。運命に抗う者達に運命の輪が回り始めた事を。
魔王が新たな器を手に入れるは、今は滅びし人間の王国……
定められた星は道を反れ、運命は幾重にも結末を変える……その、最初の星が動いた事を……。」
そう言って占星術師が星空に手を伸ばすと、湖面の淡い光が天へと上り彼女の光の翼と共に弾けて消える。それを満足げに笑みを浮かべて見届け、占星術師はその場に倒れ込む。
「シャノン!!」
そこへ1人の剣士が駆け寄り占星術師を抱き起す。
「……クライヴ……あにさまに伝えて……。影は……最初の一手を違えた……。
星は……道を変える。」
そこで小さく息を吐き、クライヴの頬に手を伸ばす。
「悲しまないで……私は……最初の星となれた……。運命は……結末を変える。
きっと……皆……大丈夫……。」
そしてシャノンは微笑みクライヴに小さく囁くと目を閉じ、クライヴは無言で彼女を抱きしめた。
それとほぼ同時刻……淡い光を放つ水晶の前で1人の男が目を閉じる。
「月を想い陽が止めた星が動き出す……運命の輪が回る。星が導き行く先は……誰が望む結末か。」
そして目を開き、光を放つ水晶を静かに見上げた。
伝承はこう伝える。
遠い昔……突如、開いた異空の門より闇を纏い一人の男が現れた。
強大な魔力をもったその男は、瞬く間に女神の祭壇を襲い黒闇の女神を連れ去った。
女神の力を手にし、その魔力をもって世界を支配した男は魔王と呼ばれる様になる。
次第に強まり世界に広がって行く闇に、半身を奪われた白光の女神は涙を流す。
やがてその涙は生命を司る大樹の葉に落ち、その雫を受けた青年達は魔王の支配から逃れ闇を払う刃となった。
白光の願いと6属性の祈りを胸に魔王の支配に終止符を打った青年達は、魔王の城を封印しその地は深い海底へと姿を消した。
こうして魔王は倒され、黒闇の女神は白光の元へと戻り双子の女神は眠りについた。
……だが、伝承には残されていない真実がある。
陽の涙を受けた青年達は、魔王を倒した後はどうなったのか。
その鍵となるのは伝承に残る”生命を司る大樹”。
そこへ辿り着く事が出来たのならば……樹の守護者と話す事が出来るのならば、その真実を知る事が出来るだろう。
事の始まりは雪原のある地。
古の王国の遺跡……周囲と隔絶された黒く渦巻く闇の中で、白銀の髪の魔族は膝を付き、肩で大きく息をする。
左手で抑えた脇腹から血が流れ落ち、その足元には血だまりが広がって行く。
大きく息を吐き、見上げた視線の先には闇に捕らわれた光竜の姿があった。
『光竜の力が手に入れば、あの方の復活は完全なものとなる……。』
その声と同時に、光竜の隣に闇が収縮し漆黒のローブを纏った魔導士が姿を現す。
その姿に魔族は言葉を発しようとするが、大きく咳き込み血を吐き出す。
しかし、魔導士を見る目には鋭い光を帯び、それを見た魔導士は不快そうに首を振った。
「……魔族と言えど、キミの目は奴等と同じ……歯向かう意思を持つ魂など不要。死してその身体を明け渡せ。その身体、その魔力は魔王様の器にこそ相応しい。」
その言葉と共に魔導士の右手に漆黒の槍が具現し、その槍は魔族に向かい放たれた。
同時に魔族が腕にしていたブレスレッドの赤い石より光が溢れ出し、次の瞬間、その光の中から黒い影が飛び出してくる。
その影は漆黒の槍を咥え取ると、魔族の前に着地する。
そこには体長が2mを超える黒狼が立っており、黒狼が槍を噛み砕き折ると槍は闇へと還り霧散した。
魔族が驚き声を上げると、黒狼は居場所を知らせるように大きく遠吠えを上げ、その直後、渦巻く闇の壁に亀裂が走る。
「……結界の外から破壊される……!?」
魔導士の顔に動揺の色が浮かぶ。
その間にも亀裂は広がり、そこに漆黒の竜の爪がかけられた。
それを見た魔導士は、魔族に止めを刺そうと魔力を紡ぐ始めるが、亀裂から飛来した白い光が魔導士を掠め詠唱を妨害する。
魔導士がその光に目を向けると、それは頭上で旋回し何時の間にそこに居たのか……魔族の前に立つ剣士の腕に舞い降りた。
そこで壁全体に亀裂が広がり砕け散り、2対の翼を持つ黒竜が咆哮をあげた。
「……時間を掛け過ぎたか……。しかし、光竜だけでも手に入れられれば良い……。」
魔導士は舌打ちすると、闇に捕らわれた光竜と共に姿を消した。
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