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魔剣士の章


 ラザフォードが騎士団長になってから3年程経った頃…
多少、ぎこちなさが残るものの騎士達との関係も良くなり指揮系統も正常化しつつある。
「…以上で今日の会議は終わりだ。」
 会議室で近隣の魔物や危険箇所の申し送りをしレオンハルトが書類を置くと、魔剣士達は席を立ち会議室を出て行く。
その一番後ろの席で背伸びをし、大きく欠伸をしたリヒャルトの姿にレオンハルトは溜息をついた。
「…リヒャルト、また居眠りしていたな…。お前は自分の立場を分かっているのか?」
 レオンハルトの言葉にリヒャルトは、また始まったと言うような顔をして肩をすくめる。
「分かってますよ。だから会議だって欠かさず出てるでしょうが。」
「出てる出てないの問題じゃ無くて…。」
 そこまでレオンハルトが言いかけた時、会議室の前を宮廷魔道士のレンが通りかかる。
その姿を見つけるとリヒャルトは小言に軽く手を振ってレンを追いかけて行き、レオンハルトは顔に手を当てた。
リヒャルトが会議室を出て行った後、レオンハルトが資料をまとめて居ると廊下で言い争う声が聞こえてきた。それに会議室から出ると、そこでは従騎士となったロウランがリヒャルトの行動を咎めており、その間に挟まれレンがオロオロしている所だった。
「…また、お前達は…。宮殿内で騒ぐんじゃない、詰め所に戻ってからにしろ。」
 レオンハルトが苦笑しつつ声をかけると、ロウランは姿勢を正し敬礼をする。
「ロウラン、そちらの会議も終ったんだな?ラザフォードはどうした?」
 レオンハルトはそう問いかけつつレンに行くように目配せし、ロウランは後ろを振り返る。
「今日は非番なので自室に戻られた筈ですが…。」
 ロウランの答えにレオンハルトは礼を言い、その場を後にした。
自室に向かう途中、レオンハルトは中庭で木陰に立っていたラザフォードに気が付き声をかけると、ラザフォードは驚いて顔を上げた。
「あ…ああ、レオンか。すまない、気が付かなかった。」
 そんな様子にレオンハルトは首を傾げる。
「どうした、ぼーっとして…お前らしくない。具合でも悪いのか?」
「…いや…何でもない。それよりも…何か用か?」
 ラザフォードは少し無理に笑みを見せるとレオンハルトに問いかける。その姿に少し引っ掛かるものを感じつつレオンハルトは口を開いた。
「…大した事じゃない。今日は非番なんだろ?新市街の彼女の所にでも行ってゆっくりしてきな。」
 新市街とは光の氾濫の際にやって来た流民達が暮らす区域で、当初は治安の悪さが問題となっていたが騎士団の巡回もあり最近はそれも解消され平穏が訪れていた。
新市街の彼女…その言葉にラザフォードは慌てて首を振る。
「…マイヤはそんな…。」
 その様子にレオンハルトが笑いをもらすと、ラザフォードは大きく肩を落とした。
軽く手を上げ自室に向かい歩いて行く後姿を見送りつつ、レオンハルトは小さく溜息をついた。
「まさか…あいつに聞ける訳…無いよなぁ…。」
 最近、一部貴族の間で噂になっている事があった。
──騎士団長は光の氾濫を食い止めた闇の4戦士の1人らしい。
浮遊大陸に移り住んだ古代人の生き残りから聞いた4人の戦士の特徴が、ラザフォードに酷似していると言う事が噂の発端だった。
確かにラザフォードは妖魔や魔物に関する知識は、旅人だとしてもずば抜けている。だが…。
そこでレオンハルトは無造作に髪をかきあげた。
“それを聞いてしまったら…ラザフォード…お前が消えてしまいそうで…。”
 その後、サロニア図書館へ借りていた資料を返すため向かったレオンハルトは図書館のある北西街へとやって来た。
図書館へ向かう途中、不意に呼び止められレオンハルトは振り返る。
すると、そこにはラザフォードの知り合いである賢者ルシフェルの姿があった。
「これは…ルシフェル殿。城の魔道士達の勧誘が煩くて隠れていると聞いていましたが…。」
 レオンハルトが笑いながら声をかけると、ルシフェルは肩をすくめる。
「少しばかりなら隠遁結界を見破られる事はあるまいよ。レオンハルト、貴殿に頼みたい事があってな。ラザフォードに気をつけていて貰えるか。」
 その言葉にレオンハルトは眉をひそめる。
「最近、あれの生命力が弱まって来ている。少しばかり早いのだが…ともかく、心に留めておいて欲しい。」

 その頃、自室に戻っていたラザフォードは胸を襲った痛みに大きく咳き込んだ。
口を押さえた手に付いた血と口に広がる血の味に顔をしかめ胸を押さえつつ呼吸を整える。
…もう…クリスタルの力を借りても限界か…。このままでは、あと半月も持たないか…。
漠然と考えて居た時、部屋の入口から人の気配を感じマントで口元を隠して視線を向けた。
すると、入口から覗き込むレンの姿があった。ラザフォードと目が合い、レンは慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません!部屋の前を通りかかった時に酷い咳が聞こえて…。ラザフォード様…どこかお体の具合でも…?」
「…大した事では無いよ。少し…風邪気味なだけだ。」
 ラザフォードはそう言って微笑んで見せた。

「何…?ラザフォードが?」
 図書館で資料を開いていたレオンハルトは、やってきたレンの話に振り返る。
「はい…先程も自室で…大した事では無いとおっしゃっていましたが…ラザフォード様…肩で大きく息をしておいででした…。」
「…分かった。私からも聞いてみよう。レン、お前は城に戻っていろ。」
 レオンハルトの言葉にレンは頭を下げ図書館を出て行く。
最近、生命力が弱まっている。…そう言ったルシフェルの言葉…。
そこで開いていた資料に視線を戻した時、噂の発端となった古代人の光の氾濫に関する一文が目に飛び込んできた。
古代人が引き起こした光の氾濫。暴走した光の力を押さえた4人の男女。
光の氾濫が治まると4人は何時の間にか姿を消して居たと言う。
4人の特徴は、ダークエルフの竜騎士、白いフードを深く被った導師、銀髪の賢者、黒髪の騎士…
その時だった。突如、地面の下から突き上げるような地震がおこる。
揺れは大きなものではあったが一瞬で収まり、その不可解さに微かに魔力の流れを感じレオンハルトは図書館を飛び出した。
「レオンハルト様!こちらでしたか!!」
「フェリシア!」
 城に戻り支度を整え詰め所へ向かう途中、伝令部隊のフェリシアが息を切らせて走ってくる。
「お伝え申し上げます!南西方向より魔道の地震発生!敵は…アンデッド部隊!」
「アンデッドだと!?」
 レオンハルトが聞き返すとフェリシアは頷く。
「…それと、アンデッドを操ると思われる魔道士が確認されています。所属は不明です。ラザフォード様率いる一師団、大臣の命により先発隊として出撃いたしました!」
「…所属も良く判らん相手に一師団だけ先発隊で出撃させるなど…何を考えている!」
 レオンハルトは舌打ちをするとチョコボ厩舎では無く、城の上階へと駆け上がっていく。
「レオンハルト様っどちらへ!?」
 それを慌ててフェリシアが追いかけて来る。
「地上を行く時間が惜しい。このままでは先発隊に甚大な被害が出る。」
 その言葉と向かっている方向に気が付き、フェリシアは驚き声を上げた。
「まさか…シグムントで!?レオンハルト様!おやめ下さい!危険過ぎます!!」
 城の最上階…そこに繋がれていた飛竜・シグムントの顔を撫で、レオンハルトは話をするようにシグムントの口元に額を当てる。
「…竜族の血を引く私を舐めるな。未だ誰も飛竜に乗れんのは、竜の心を知ろうとしないからだ。」
 その言葉と共にレオンハルトはシグムントに跨ると、シグムントはゆっくりと羽ばたき空へと舞い上がった。
「フェリシア!魔剣士隊と騎士団に伝えろ!準備の整った隊から出撃しろ、とな!」
 その様子をチョコボ厩舎で上空を見上げていたリヒャルトは咥えていたタバコを消し笑みをもらす。
「…そうこなくちゃね。それだけ大声で騒いでれば嫌でも聞こえますよっと。」
 そして、チョコボに跨り後ろを振り返る。
「おら!魔剣士隊全軍出るぜ!付いてきな!!」
 サロニア城上空で出撃を開始した魔剣士隊の姿にレオンハルトは苦笑する。
「…流石はリヒャルト…私の性格を良く理解している。シグムント、頼むぞ!」
 そして、シグムントの手綱を引くと飛竜はゆっくりと南西に広がる森へと羽ばたいた。

「お前か…今回の事件の引き金は…。」
 目の前に立つフードを被った魔道士の姿にラザフォードは剣を構える。
先程までの喧騒が嘘のように聞こえなくなり、周囲は異様な静寂に包まれていた。
…周囲に結界を張られたか…。状況の変化にラザフォードは小さく舌打をする。
「その通り…とあるお方からのご依頼でね。ここ数年で騎士団をまとめ上げた貴方が目障りなんだそうだ。それと個人的に…貴方の持つクリスタルの力は我等が妖魔がこの地へやってくる為の障害となる…。今、この場でその命…貰い受ける!」
 その声に呼応するように、魔道士のまわりにアンデッド達が姿を現した。

 一方、森の中ではラザフォードを探していたロウランが襲ってくるスケルトンを倒し膝を付く。
「くそっキリが無い…どこから湧いて来るんだ…!」
 その時、背後の気の影からゴーストが湧き出し音も無く舞い上がる。
そして、ロウランに襲い掛かろうとした瞬間、突如上空から火球が迫りゴーストを直撃して消滅させた。それに驚き、ロウランが上空を見上げると羽音と共に飛竜が舞い降りてきた。
「ロウラン!無事か!?」
 シグムントから飛び降りレオンハルトはロウランに声をかける。その姿にロウランは安堵した表情を見せた。
「…これでも…一応、従騎士です。この位…それよりも、ラザフォード様を…。」
 そこでロウランは気を失い、レオンハルトは手早く傷の手当をし木陰に座らせる。
…このまま行くのは簡単…しかし、応急処置をしたとは言え…ロウランを1人置いていくのは…。
立ち上がりレオンハルトが思案していると、シグムントが小さく鳴きロウランを護るように身を寄せた。
「シグムント…お前…。…ロウランを護ってもらえるか?」
 レオンハルトが問いかけると、シグムントは再び小さく鳴き声を上げて答える。
「ありがとう。すまない、ロウランを頼む。」
 そう言ってシグムントの顔を撫でると、雨の降り出した森の中をレオンハルトは駆け出した。

「どうした?もう終いか?」
 そう問いかけたラザフォードの周りには、無数の砕かれた骸骨が転がっている。
「その程度の力では、私の命…くれる訳にはいかないな。闇の人形使い…虚無へ還るがいい…。」
 ラザフォードの言葉にアンデッドを呼び出した魔道士は後ずさる。
そこで不意に背後から枝が折れる音が響く。
それに視線を向けると、そこには民間人らしき母子の姿があった。それに思わずラザフォードは振り返り声を上げた。

「魔剣士隊だ!!」
 森の中で戦いを続けていた騎士団に歓喜の声が上がる。
森に辿り着いた魔剣士隊は一気に森の中に展開していく。
「いいか!足場が悪いから気を抜くな!そして、確実に化け物の核を潰せ!」
 魔剣士隊に指示を飛ばしリヒャルトは降り続く雨に空を見上げた。
「…ったく…ヤな雨だぜ…。」
 その頃、その上空を伝令部隊のフェリシアがグリフォンに乗り旋回していた。
「レオンハルト様達…ご無事かしら…。」
 フェリシアが呟くと、その後ろに乗っていたレンが森の入口を指差した。
「フェリシア、竜が居る!シグムントだ!」
「え!?」
 その声に慌ててフェリシアがその方向を見ると、そこには森の入口で身を丸めるシグムントの姿があった。
森の中をアンデッドを切り伏せつつレオンハルトは僅かな違和感を感じていた。
広大な森とは言え慣れ親しんだ場所でもあるこの森で、ただ1人だけ見つけられないのだ。
「ラザフォード!返事をしろ!!」
 あのラザフォードがこの状況で従騎士のロウランを置いて、そんな奥まで進むはずが無い…。
立ち止まり周囲を見渡す。何か見落としているものがある筈…。
心を落ち着けるように目を閉じ、大きく深呼吸をし感覚を研ぎ澄ませる。
不意に視界の隅に僅かに弾ける光が見えた。そこにあった岩に向かい魔剣を振り払うとそれは陽炎のように揺らめいた。
「くそ…私とした事が結界に惑わされるとは…。」
 結界の中に入り込み、レオンハルトは再び走り出した。

「…甘いですね。民間人に気を取られ隙を見せるとは。」
「…くっ…。」
 ラザフォードは苦しそうに膝をつく。民間人の母子に気を取られた瞬間、魔道士の放った魔法をまともに受けたのだ。
「に…げろ…早く!遠くへ…。」
 後ろに視線を向けそこまで話した時、不意に込み上げてくる感覚が襲いラザフォードは大きく咳き込むと血を吐き出した。
胸を押さえ苦しそうに大きく肩で息をするラザフォードの姿に魔道士は笑みを浮かべる。
「おや…苦しそうですね。病を患っておいでですか。…丁度いい、黙って見ていなさい。あの親子が死ぬ所をね。」
 進む先から悲鳴が響き、それにレオンハルトは舌打ちをし獣道を走る。
森が開け真っ先に目に飛び込んで来たのは、子供を庇い氷の槍で貫かれた親友の姿だった。
まるでその光景がスローモーションの様に見える。そんな中、レオンハルトの姿に気が付いたラザフォードが僅かに彼の名を呟いた。
「……ラザフォード!!!」
 レオンハルトが名を叫ぶと同時にラザフォードは力無く地面に倒れ、その傷から流れ出す血が地面を赤く染めて行く。
ラザフォードに駆け寄ったレオンハルトの姿に、魔道士は後ずさる。
「まさか…結界を見破ったと言うのか…!?」
「…何故…こいつが…何をした…?」
 レオンハルトがポツリと呟く。
「お前達に…一体……何を……。」
 次の瞬間、レオンハルトが持つ魔剣が今までに無い暗い闇の魔力をまとい始める。
ゆっくりと立ち上がり、レオンハルトが振り向いたと同時にその力はさらに大きく渦巻き始める。
“剣の刀身が紫に変化した!?何だ…この負の力の高まりは…!!”
周囲を包み始めた魔剣から放たれる闇の魔力に、魔道士は恐怖を感じ転移しようと魔力を紡ぎ始めた。
しかし、その詠唱は完了する事無く、レオンハルトが振り抜いた魔剣から放たれた魔力が形作った漆黒の龍に飲み込まれる。
漆黒の龍はその場で渦巻き爆発を起こし、その爆風に結界が吹き飛ばされ空を覆っていた雲もかき消されていく。
周囲は既に夜の闇に包まれ、空には白い満月が浮かんでいた。
「…ラザフォード…。」
 レオンハルトはラザフォードをそっと抱き起こす。
「…レオン…?」
 ラザフォードはゆっくり目を開きレオンハルトを見ると、泣き声のする方へ視線を向ける。
そこには、ただ泣き続ける少女の姿があった。
「あの子の母親を…護れなかった…。私は…騎士…失格だな…。」
「喋るな…ラザ…。」
 咳込むラザフォードをレオンハルトが止めると、彼は小さく首を振る。
「…お前には…話さないと…思っていた。私は…この世界の住人では…ない。
噂になっている通り…闇の戦士の1人…。本当は…すぐに元の世界に戻る筈だった…。
でも…私はこの世界をもっと見てみたかったんだ。自分達の世界とは別の…光の世界を…。」
 そこで一度言葉を切りラザフォードは大きく息を吐く。と、その時、小さな音が響き彼がしていた赤いピアスに亀裂が走った。
「この世界に残ると言うと…仲間は猛反対をした…。その時、すでに…私の命は“風”に支えられて居たから…。
戻らないという事は…風から与えられた力が弱まれば、命を失うと言う事だったから…。だが…後悔はしていない…。…お前に…会えたから…。」
 ラザフォードはそう言ってレオンハルトに微笑むと、空に浮かぶ白い月を見上げる。
「…こちらの月は…優しいな…。ただ…優しく包み込んでくれる…。お前…みたいだよ……。」
 それを最後にラザフォードは静かに目を閉じ、彼の赤いピアスが砕け散る。
その様子を、ただ黙って見届けレオンハルトはうな垂れた。
「…間に合わなかったか…。」
 レオンハルトが顔を上げると森の中からルシフェルが姿を見せ、それにレオンハルトはラザフォードに視線を戻す。
「ルシフェル殿…すまない…。護る事が出来なかった…こんなに…近くに居たのに…。」
 言葉を無くすレオンハルトにルシフェルは静かに首を振った。
「自分を責めるな、レオンハルト。こいつの顔を見れば分かる。…後悔はしていない…。今まで一度も見せた事が無い、安心しきった寝顔だ。」
 そう言ってルシフェルは微笑した。

「ええ!?レオンハルト様が追放!?」
 翌日、詰め所で魔剣士と騎士達の間でざわめきが起こる。
詰め所に集まった者達が伝えられた事はラザフォードが戦死し、レオンハルトが魔剣士隊隊長の任を解かれサロニアを追放されると言う話だった。
「陛下がレオンハルト様の魔剣の力を恐れたとか…。」
「しかし、そのお陰で魔物達を…。」
 魔剣士と騎士達の間で動揺が広がる中、ロウランは詰め所を飛び出しレオンハルトの自室へ向かい走り出した。
“なんで…!?ラザフォード様が亡くなり、その上、レオンハルト様まで…”
その途中、中庭を通りかかった時、そこで涙を堪えるレンの姿を見つけロウランは立ち止まる。
「レン…姉さん!」
 その声にレンは顔を上げる。
「レオンハルト様は…!?」

 その頃、既に城を出たレオンハルトが城門をくぐると、そこに1人の女性が立って居た。
「…貴女は…。」
 それは、ラザフォードが良く行っていた新市街に住むマイヤだった。マイヤはレオンハルトに向かい深く頭を下げる。
「…最後にご挨拶をしておこうと思って…。私はサロニアを去る事にしました。ここは…あの人の思い出が多すぎるから…。」
 その言葉にレオンハルトも俯く。
「行く当ては…あるのか?」
 レオンハルトが問いかけると、マイヤは頷く。
「風の大陸…浮遊大陸に住む仲間の所へ戻ります。それが…彼の願いだから…。」
 そう言ったマイヤの手にはラザフォードが持っていた小剣が握られていた。彼女は笑みを見せるとレオンハルトにもう一度大きく頭を下げた。
マイヤと別れた後、レオンハルトはルシフェルに教えられた北西の街郊外にある、一見、空き家のように見える館へとやって来た。
扉を開け中に入ると外とは違う空気の流れを感じ、外とは隔離された結界の中に入った事に気がつく。
「…ルシフェル殿?」
 薄暗い部屋の中に声をかけると奥からルシフェルが姿を見せた。
「…魔剣士の私が来る所では無かったかな…?精霊がざわついている…。」
 レオンハルトが周囲から感じるざわめきに肩をすくめると、ルシフェルは笑みをもらす。
「気にする事は無い。…それよりも…手間をかけたな。あれを連れて戻らず死んだと皆に説明するのは骨が折れただろう。」
 その問いにレオンハルトは首を振る。
「そこまで苦労はしなかったですよ。死体の無い帰還は良くある事です。国は認識票が戻ればそれで処理をする。」
 努めて冷静に答えようとするレオンハルトの姿に、ルシフェルは目を伏せる。
「レオンハルト、ラザフォードの件だが…お前には教えておく。あれは死んでおらぬ。」
 ルシフェルの言葉にレオンハルトは驚いて顔を上げる。
「“風”から受け取った赤いピアスが砕け散り時間凍結が作動したのだ。
気が付いているだろうが…私も4戦士の1人。時間凍結が作動した時のために、ここに残った。
あれは私達の世界へ送り返した。今は風の元で眠りに就いている。…ただ…もう会える事はなかろうが…。」
 それを聞いたレオンハルトは気が抜けた様な笑いを漏らした。
「は…はは…生きているのか…あいつは…。」
 そして顔に手を当てたその頬を一筋の涙が滑り落ちる。
「ラザフォードは生きて居るんだな…。」

「レオンハルト様!!」
 ルシフェルの館を出て南城門へ向かう途中にレオンハルトが名を呼ばれ振り返ると、そこにはロウランとレン、それにリヒャルトの姿があった。
「お前達…。」
「オレ達はレオンハルト様に付いて行きます!」
 ロウランの言葉に驚いてレオンハルトがリヒャルトを見ると、彼は肩をすくめた。
「仕方が無いでしょうや。ひよっこは止めても聞かないし…それに、オレも隊長が居ない軍隊はつまらんからお供させてもらいますよ。」
 その言葉とロウラン達の様子にレオンハルトは呆れたように苦笑した。

───サロニアを去ったレオンハルトはサロニアの南西にあった湖畔へ居を移す。
その後、同じ様にサロニアを追放された魔剣士達もこの地を訪れ一つの集落が生まれ、この地が魔剣士の里ファルガバードと呼ばれる事となる。
暗黒剣を極めようとするならば、まずファルガバードを目指せ。
サロニアの西の山に隠された魔剣士の里を…。


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