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初恋の思い出


 窓から遠くに森の木々の合間から湖が見える自室で、サラはロトから預かったペンダントを手に想いにふける。
あれは、まだ本当に城の中の事しか知らなかった子供の頃…。

 その日は珍しく父王が自分を連れて配下の貴族が催した狩りに出た。
兵士が周囲を固めていたが、城の外に初めて出たサラには見るもの全てが新しく好奇心を刺激される事ばかりだった。当時は魔物が出ると言っても今ほど頻繁では無く、御付の兵士達もそれほど厳しい監視をしている訳でもない。
つまりは簡単に目を盗み森の散策に出かけられたのだ。
兵士の目を盗み一人歩き始めたサラは鳥の声が響く森の中を草花を手に取り、目の前に姿を見せた小動物を追いかけ何時しか湖の畔までやって来ていた。
日の光を反射させる城の自室からしか見た事の無かった湖を前に、サラは大きく深呼吸をする。
暫しその光景を見つめ、そろそろ戻ろうと踵を返した時だった。
足元の草に隠れていた木の根に足を取られ転んでしまい足首を捻ってしまった。
早く戻らないと皆に心配をかけてしまう…次第に焦りと不安が募り涙が溢れてきた。
そんな時だった。
「…誰か居るのか…?」
 森の中から訝しげな声が聞こえてきた。サラが驚いてそちらを見ると、低木の陰から1人の少年が姿を見せた。
サラと同い年位だろうか…。まだ、あどけなさが残る少年はサラを見て少し警戒した表情をする。
「…貴族…?何でそんなお嬢様がこんな所で…?」
「…貴方は誰?」
 涙を拭いサラは問いかけるが、少年は無言でサラに近づき捻った足首に手を当てる。
「いたっ…。」
 サラが痛みに身体を強張らせると少年はちらりとサラを見た後、肩にかけていたバッグを下ろす。
「大した事無いよ。ただの捻挫だ。」
 そう言って、バッグから薬草や包帯を取り出すと手際良く処置をして行く。
「詳しいのね。」
「森を歩くには常識だ。」
 サラが話しかけるも少年はぶっきら棒に答える。
その様子にサラは少しムッとするが、そこで少年の前髪で隠れていた顔の右目から頬に残る傷跡に気がつき彼の前髪に触れた。すると少年はサラの手を払う。
「あ……ごめん…。」
 思わず反射的な行動だったのだろう。少年は少し気まずそうにサラに謝った。
「どうしたの?その傷…。」
 すると少年は顔に手を当て俯いた。
「…わからない。」
「え?」
 サラが首を傾げると少年は溜息をつく。
「…覚えて無いんだ。僕はウルの近くで怪我をして気を失ってたらしい。ウルに住む魔道士が助けてくれたから、今、ここに居るんだけど…目が覚めた時、名前以外何も判らなかった。」
「…ごめんなさい…。」
 思いがけない答えにサラは少年に謝る。淡々と答えてくれた少年だったが、その顔はとても不安げな表情をしていたからだ。
そんなサラの様子に少年は肩をすくめて見せた。そこへ白い小鳥が少年の肩に舞い降り、少しして舞い上がる。
「別に気にしなくていいよ。…行こう。向こうで誰かを探してる兵士がいるみたいだ。」
 少年はそう言ってサラを背負い、先程の白い小鳥を追うように歩き出す。
少年の背に揺られながらサラは彼の事が無性に気になって仕方が無かった。
貴族だと分かっていながら自分に媚びる事の無い無愛想な少年…しかし、なんと話しかければ良いのか分からずサラは黙り込む。
お互い無言で暫く進んだ所で少年は足を止める。
「…迎えが来てるよ。」
 そう言って少年はサラを下ろし、肩を貸して捻った足に負担をかけない様に立たせた。
すると、少年の指差した先からサラを探していた兵士がエルフの魔道士に先導されやってくるのが見え、サラの姿を見ると大慌てで走ってきた。
少年は兵士が来るとサラを任せ黙って後ろに下がると、兵士を連れて来たエルフの魔道士の元へと駆けて行く。そのエルフの肩には先程、先導するように飛んでいた白い小鳥が止まっている。
兵士の一人がエルフに頭を下げ、エルフは微笑んで見せると少年と一緒に森の中へと姿を消して行った。

 あの出来事以降、魔物の活動も活発になった事もあり自由に外へ出ることも出来なくなってしまう。
城の中に同年代の子供は居らず、森で助けてくれた少年との思い出はずっと…忘れる事無く胸の中に残り続けた。
「ロト…。」
 思いがけず再会することが出来た少年は、光の戦士と言う重責を背負い旅立って行った。
『この旅が終ったら…。』
そう言って、自分に預けていった大切なペンダント。
サラはそれを見つめ、黙って目を閉じる。
「…どうか無事に…帰ってきて…。」
 祈りを捧げ目を開いた時、目の前にはあの時と変わらない湖が日光を反射させ眩しく光り輝いていた。


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