薄暗い塔の一室でベッドに横たわる男が居る。
銀…と言うよりも白銀に近い色の長い髪。と言っても外見はまだ若い。世界が闇に包まれたその日から男は目覚める事は無かった。
いや、眠っているのではない。『止まっている』と言った方が正しいか。
その傍らには1匹の白い小さな竜が寄り添っていた。
「…健気なものだ。目覚めぬ主を待ち続けるのか。」
全ての時間が止まった世界において活動を続ける者。主が闇を呼び出したその時、闇と共に姿を現した漆黒の魔道士。
時間を止めようとする闇に抗い続けて来た小さな光竜は、精一杯翼を広げ警戒して見せる。
「私は魔王殿の願いを叶える為にやって来たのだ。…闇の力を手に入れると言う、な。」
暗黒魔道士は面白そうに笑みを漏らし部屋を出て行き、光竜は翼を閉じると力無く首を下ろし主の顔を見た。
静まり返った塔の中、光竜は一つの扉をくぐる。
暗い広間に光竜が放つ僅かな光が中に鎮座する5体の竜の像を浮かび上がらせた。
その中央に舞い降り光竜は人の形に姿を変え、その場に座り込む。
「皆…ごめん…。私はもう…ダメかもしれない…。」
か細い声が広間に響く。
「光が…消えて行く…。約束…したのに…。」
そう呟きうな垂れた光竜の頬を一筋の涙が滑り落ちた。
「…ふん…馬鹿な人間…。こんな物を使ってクリスタルの力を手に入れられるなんて…本当に思ったのかしら。」
赤い輝きを放つ水晶…火のクリスタルの前で褐色の肌の女性が呟く。
その足元には息絶えた盗賊の姿があった。
デッシュの言葉に従いドワーフの棲み家を訪れた4人は、ドワーフ達の宝である氷の角の盗難事件に遭遇する。
そこでドワーフ達に頼まれ、氷の角を盗んだ盗賊を追い溶岩が流れる火の洞窟へとやって来たのだ。
褐色の肌をした女性は興味無さそうに氷の角を4人に向かい放り投げる。
「光の戦士…翁とメデューサを倒した位で調子に乗らないで。ここで…あなた達の旅は終る。」
その言葉と同時に女性は炎に包まれ、その中から炎を纏った竜…サラマンダーが姿を現した。
その姿に4人が身構えるとサラマンダーは大きく息を吸い炎を吐き出す。同時に4人は散開しロトがサラマンダーの注意を引きつける様に前を走り抜けた。
サラマンダーが食らい付こうとする牙をかわし振り下ろされる爪を受け止める。
その背後からアムルが連撃を加え、少し離れた位置からユリアスの放つ冷気がサラマンダーを襲う。
物理的な猛攻はロトが何とか引きつけユリディナが支援していたが、時折、無差別に放たれる火球が地面に溶岩溜まりを作り出す。
それを避けようとアムルが横に移動した時、サラマンダーは尾を振り払い咄嗟に防御したもののアムルは弾き飛ばされた。
「アムルは私に任せておけ!」
走り出そうとするユリディナを制止しユリアスはすぐにアムルの所へ駆け寄り、ポーションを取り出し口に含ませた。
「…なんか…祭壇の洞窟でも似たような事あった気がするぞ…。」
大きく咳き込んだ後、アムルはうんざりした様に呟く。
「そう思うなら、もう少し敵の動きに注意しろ。こう言った時間のロスが的を抑える者の負担になる。」
ユリアスの言葉にアムルは口元を拭い、頷くと再びサラマンダーに向かい走り出す。
その背中を見送りつつ立ち上がり、ユリアスは魔法のオーブに意識を集中し詠唱を始めた。
一方、サラマンダーの注意を引きつけ攻撃を続けていたロトは、後ろから走ってくるアムルの姿に周囲の状況を確認する。なるべく溶岩溜まりが攻撃の邪魔にならないように後退しつつ誘導し、サラマンダーの爪を小剣で受け流す。
しかし後退した隙を逃さずサラマンダーは大きく息を吸い込み、ロトは慌てて避けるとその脇をブレスが掠めて行った。周囲に作り出された溶岩溜まりやサラマンダーが纏う炎で周囲の気温は上昇し、徐々に体力を奪って行く。
何とかサラマンダーの攻撃を防いでいたロトではあったが、足元に流れ落ちた血に足を滑らせる。
「…っ…!!」
僅かに体勢を崩した隙を逃さす、サラマンダーはブレスを吐き出そうと首を持ち上げた。
「させるかよ!!」
そこをアムルが大きく踏み込み三節棍を振り払う。振り払われた三節棍は弧を描きサラマンダーの下顎を強打し、方向を変えたブレスは天井を直撃した。
軽い脳震盪を起こしサラマンダーがよろけた時、周囲の気温が下がり始めユリアスが紡いだ魔力を解放する。
『無念の響き 嘆きの風 全てを凍らせ忘却の真実を語れ …ブリザガ!』
一瞬の静寂ののち、サラマンダーの下に魔法陣が浮かび上がり氷柱が衝き上がりその体を貫いた。
氷柱が砕け散るとサラマンダーはゆっくりと身体を横たえる。
『…ああ…ザンデ…様…申し訳…あり…ません…』
小さく呟きサラマンダーの身体が炎に包まれる。そして炎が消えた時、そこには何一つ残されてはいなかった。
緊張が解けその場に座り込んだ3人の姿に笑みを漏らしつつ、ユリアスは地面に転がった氷の角を拾い上げる。そこで奥から光が弾けクリスタルが淡い光を放ち、周囲に声が響いた。
『…待っていたぞ…風の啓示を受けし者…光の戦士たちよ。炎の中に眠る光の力をお前達に授けよう。…それと、助けを求めて来た娘が来てな…。』
すると4人の目の前に光の球が現れ、その中から妖精が姿を現した。
「何故…こんな所にフェアリーが…?」
ロトが戸惑いつつフェアリーに手を伸ばすと、彼女は目を覚まし驚いた顔をする。
「…私達に用があったのでは無いのか?」
ユリアスが問いかけると、フェアリーはハッとする。
「…貴方達は…光の戦士…!お願いです!私たちの森を助けて!!」
「落ち着いて?何があったの?」
唐突な願いにユリディナがフェアリーを落ち着かせるように問いかけると、彼女は深呼吸をする。
「すいません…慌ててしまって…。私の名前はフィー。“生きている森”に住んできます。」
「生きている森…?」
アムルが首を傾げるとフィーは頷く。
「アーガスの南西にある森です。そこには一万年を生きる長老の樹がありました。それをアーガスの神官ハインが呪いをかけ連れ去ってしまったのです。
長老の樹が戻らなければ、もうすぐ森が死んでしまいます…皆、枯れてしまうのです。」
フィーの言葉に4人は顔を見合わせる。
「フィー、長老の樹は今は何処に?」
再びユリディナが問いかけるとフィーは顔を上げた。
「長老の樹は城の形に刻まれ、砂漠を彷徨っているんです…。」
「…アーガスの神官…砂漠の城…もしかして…?」
ロトが呟くとユリアスは頷きクリスタルを見る。すると、クリスタルは淡い光を放った。
『もう…あまり時間がない。水を目覚めさせて欲しい…頼んだぞ…。』
そして、周囲を光が包み4人と妖精はその場から姿を消した。
炎の洞窟から戻った4人はドワーフの棲み家に盗まれた氷の角を返しに行くと、ドワーフ達は喜び歓迎してくれる。ドワーフ達の歓迎が一息つき他の3人が買い出しに行った所で、ユリアスはフィーに問いかけた。
「ハインとはどう言う者か…何か聞こえては来なかったか?」
すると、フィーは少し考え込む。
「ハインは自分の弱点属性を変える事が出来るそうです。それを見破る力が無くては倒す事は出来ないかもしれません…。」
「なるほど…クリスタルの力を借りた方が良さそうか…。」
そこで戻って来たロトが盾を持っている事に気がつきユリアスは不思議そうな顔をする。それにロトは苦笑した。
「この先、皆を守るには二刀流だと限界だとサラマンダー戦で思ったんだ。自分が倒れないためにも…ね。炎から貰った光に騎士の心があった。丁度良い機会だし騎士の修行をしてみようと思うんだ。」
その返事にユリアスは笑って見せる。…その時だった。
棲み家の入口の方でざわめきが起こり2人は入口へと向かう。
すると、そこには傷ついた男性が倒れており先に来ていたアムルとユリディナが手当てをしている所だった。ロトとユリアスが近づくと、男性は目を開け手を伸ばす。
「おお…光の戦士…助けてください…。トックルの村が…焼かれようとしています…どうか…たすけて…。」
そう言って男性は目を閉じる。アムルがユリディナを見ると、ユリディナは首を横に振った。
「…フィー、ハインの城に行く前にちょっと寄り道になるけど…良いかい?」
ロトが問いかけるとフィーは黙って頷く。
そして、男性の埋葬を申し出てくれたドワーフ達に礼を言うと4人は急ぎトックルの村を目指し船を出した。
「…まだ大丈夫みたいだな。」
村の入口へ続く森を歩きロトが安堵の溜息をつく。が、その隣でアムルが眉間に皺を寄せる。
「んー…でも何か…嫌な感じがする…。」
その時だ。
「…きゃ…。」
ユリディナの小さな悲鳴に2人は驚いて振り返った。
「ユリディナ!?……あっ……。」
突然、背後から殴られロトは地面に倒れる。
何とか顔を上げるとユリアスとユリディナが連れて行かれるのが見え、それを追いかけるアムルの後ろに鈍器を振り上げる兵士の姿があった。
「…ア…ムル…後ろ…!!」
ロトの言葉も虚しくアムルも殴られその場に倒れこみ、次第に朦朧としてきた意識の中でロトは自分を担ぎ上げようとする兵士が胸につける紋章が目に入った。
“アーガス…本当に…アーガス王が…?”
そこで意識は闇に引きずられ、完全に途切れる直前に感情の無い兵士の言葉が微かに聞こえた。
「連れて行け。ハイン様の城で奴隷として使ってやる。」
|