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古の機械塔


───……塔が赤い炎を上げて崩れ去ろうとする時……運命を変える男が目覚める。
北にあるオーエンの塔に入りなさい。
デッシュ……そなたの運命が待っている。

 グルガン族の谷へやって来てから数日…デッシュは湖の見える高台で黙って空を見上げていた。
「デッシュ!」
 自分を呼ぶ声に振り返ると、高台に続く道をアムルとユリディナが登って来る所だった。
「よぉ、病み上がり。もう歩き回っても平気なのか?」
 その言葉にアムルは苦笑し、左肩を回して見せる。
「もう大丈夫だよ。肩の痛みも取れた。」
 そんなアムルの様子を笑いを見せたデッシュだが、急に真顔になる。
「なぁ、アムル。自分の命…もっと大切にしろよ?」
「…?どうしたんだ?急に…。」
「双子は自分1人の命じゃないって事。」
 デッシュの言葉にアムルは気まずそうに頭を掻く。
「デッシュ…何かあった?何か…ヘンだよ?」
 いつもと違う様子のデッシュにユリディナは問いかけると、彼は溜息を吐き再び空を見上げた。
「…オーエンの塔に行かなくては…そんな気がする。あの預言者の爺さんが言ってたことは当たってそうだ。…運命が待ってる。」

 大陸の北に位置する外海へ通じる岬の先に、何時の時代の物なのか…機械仕掛けの塔がある。
オーエンの塔…そう呼ばれる塔は地階が水没し、奥に進むことが出来ず手付かずの古代の遺物として静かに佇んでいた。
グルガン族の谷で蛙に姿を変える事の出来るトードの魔法を譲り受けた5人は、水没した地階を抜け塔の1階へと辿りついた。
そこで、デッシュは塔を見回し考え込む。
「…何か…ここ、見覚えがあるぞ…!?」
 デッデュがそう呟いた時だった。
『…おやおや…こんな所に迷い込んだ蛙が5匹…。』
 不気味な声が塔内に響く。
『ようこそ、オーエンの塔へ。ここが貴様らの墓場となる…。』
 それを最後に、辺りは再び静寂に包まれた。
「…どうやら、この塔には私達を歓迎してくれる者がいるらしい。何があるか分からん。油断だけはするな。」
 ユリアスの言葉に4人は頷き、慎重に塔の内部を進み始めた。
塔の内部は今まで見た事のない機械が動き続けていた。機械の振動や駆動音が響く中、5人は襲いかかってくる魔物を退け塔を登る。
そんな中、徐々にデッシュは記憶を取り戻しつつあり、途中、彼の知識で塔の仕掛けを解除する事が出来た。
そして、塔の最上階……薄暗い中、赤々と燃える炎の明かりだけが不気味に周囲の物に反射する。
その前に白いローブを纏い膝を付いていた女性の姿に5人は身構えた。
「…ここまで辿りついたのか…。」
 そう言って女性は振り返る。立ち上がったその姿はローブの下から蛇と化した下半身が見える。
「盟主ザンデ様の命により、このメデューサが塔を破壊し宙に浮いたこの地を闇の大陸へと還すのだ…。邪魔はさせん!」
 メデューサは両手をかざし詠唱を始める。そして生み出された強烈な冷気が5人に向かって放たれた。
その冷気は確実に5人を捕らえたかの様に見えたが、アムルがその冷気の中から勢い良く飛び出し、メデューサに殴りかかる。
メデューサは動じることなく、すぐに魔法を唱え、そして炎の渦がアムルに襲いかかった。
「うわっち!」
 咄嗟にアムルが間合いを広げると同時に、ロトが死角からメデューサに剣を振り下ろす。
しかし、その剣先は虚しく空を切った。彼女は2人の動きを見切っていたのだ。
ロトの攻撃をかわし、隙の出来たロトに向かいメデューサは再び冷気を浴びせかける。それに向かいユリアスが放ったファイラの炎が冷気を相殺させた。
「ふぅむ…なるほど…。まだまだ荒削りとは言えランドの翁を倒した事は偶然では無いと言う事か。」
 独り言を呟き、メデューサは大きく円を描く。そこに魔法陣が描き出されそこから大蛇が姿を現した。
大蛇はロト目掛けて襲い掛かり突然の事にロトは床を蹴り大蛇をかわしたが、そこをメデューサの尻尾が足を絡め取り放り投げる。
それにロトは左手を付いて体勢を立て直そうとした。だが…。
「だめだ!ロト!!手を付くな!」
 デッシュの叫びにロトは着地先に視線を向ける。すると、そこには別な大蛇が口を開けている姿が見え、咄嗟に身体を捻り頭を守るように身体を丸めた。
凄まじい衝撃が全身を襲い、体中の骨が軋む。
意識が遠のきかけるのを何とか堪え、ロトはゆっくりと身体を動かしてみた。
…動く。まだ行ける。
ゆっくり立ち上がった彼を見て4人は安堵の溜息をもらし、ユリディナは急いでロトに駆け寄った。
召喚された大蛇を倒し、アムルはメデューサに向かい走り出す。そこで、ユリアスはメデューサが不意に目を閉じた事に気が付いた。
「視線を逸らせ!ヤツを見るな!!」
 次の瞬間、メデューサの目が怪しい光を放ち周囲に赤い光が走りぬける。
「…何だ、これ!?」
 メデューサに向かい走り出していたため、視線を逸らすのが遅れたアムルが声を上げる。みると、その指先から徐々に石化が始まっていた。
デッシュはすぐに走り出し腰のポーチから金の針を取り出すと石化しだした腕に刺す。
「おねーさんの熱い視線に気をつけな。石にされちまうぜ。」
 冗談ぽく…しかし、真顔で話すデッシュにアムルは頷く。それにデッシュは笑って見せ、音も無く動き出した。
メデューサの放つ魔法を潜り抜け切りつけると彼女は持っていた杖でそれを受け止める。
そこへ、アムルも魔法を詠唱させる間を与えないように攻撃を続けた。ロトも加わり3人の動きに惑わされ、次第にメデューサの意識が全体を把握しきれなくなってくる。
その時、ロトの剣が床を軽くこすり、耳障りな嫌な音が耳に飛び込んで来た。
「…そろそろ終わりにしてくれる!!」
 苛立ちそう言ってメデューサは再び目を閉じた。と、そこで彼女の動きが止まる。
「……あ……。」
 左胸を襲った突然の痛みにメデューサはゆっくりと振り向く。そこで目に入ったのは黒髪の男の姿だった。
「……こだい……びと……。」
 そう言った所で彼女の口から一筋の赤い雫が滑り落ち、デッシュが剣を引き抜き血を払うとメデューサはその場にくずおれる。
『…ああ…マスター…。』
 それを最後にメデューサは闇に呑まれ、そして消えていった。
静寂の戻った部屋の中で、デッシュはすぐに赤い炎が吹き荒れる動力炉を覗き込む。
「デッシュ…どうかした?」
 ユリディナが近づこうとすると、デッシュはそれを制止しする。
「おっと…それ以上近づいたらダメだぜ、ユリディナ。危ないからな。…やっと思い出したぜ…オレはこの塔の守人。古代人の生き残りだ。」
 デッシュの言葉にユリアスを除く3人は考え込み、すぐに驚き声を上げた。
遥か昔に超文明を築き上げたと言われる古代人…。1000年前の災害で文明が滅び、僅かな生き残りの末裔が現在も居ると言われている。
しかし、そこでロトは少し引っ掛かるものを感じ問い返す。
「生き残りって…末裔…では無いのか?」
 その問いにデッシュは腰に手をあて胸を張る。
「そ、生き残り。正真正銘の古代人だ。」
「…やはりそうか。何か…波長が他の人間とは違っていた。」
 半信半疑な3人とは違い、ユリアスは呟き微笑する。
「流石は生粋なエルフ、その辺は鋭いな。…長い眠りについてたんだ。もし、塔に異変があったら目覚めるように…。しかし、眠り過ぎててちょっとボケてたみたいだな。」
 デッシュは苦笑しつつ頭を掻く。そして、振り返り動力炉を見た。
「…随分ひどいが…まだ何とかなるかもしれん。オレはこの中に入って動力炉を直さなくてはならん。」
「…な…やめろよ!この中に入るなんて!!」
 アムルが慌ててデッシュを止める。それにデッシュは困ったような顔をして見せた。
「しゃーねぇよ。このままじゃ浮遊大陸は動力を失って落っこちちまう。」
「浮遊…大陸…?」
 ユリディナが首を傾げると、デッシュは頷いた。
「この大陸はさっきの蛇女が言ってた通り、宙に浮いてるんだ。その動力を生み出しているのが古代人が作ったこの塔。だから、この塔が機能を停止しちまったら大陸は下に落っこちる。それだけは止めなきゃいけない。」
 淡々と話すデッシュの様子に黙って話を聞いていたユリアスが口を開く。
「…デッシュ…お前、死ぬぞ?」
 それにデッシュは静かに微笑んだ。
「これがオレの運命なのさ。…お前達が光の戦士であるように。けして変える事の出来ん、変わる者の居ないオレの運命。」
 暫しの沈黙……。周囲に動力炉で燃盛る炎の音だけが響く。ユリディナが涙を堪え俯くと、デッシュはいつもの調子で笑いユリディナの涙を拭く。
「ま、こんな生き方も格好良いじゃないか。さて…ここでお別れだ。」
 デッシュはそう言って、ユリディナをアムルの方へ離れさせる。
「アムル、ちゃんと女の子は守ってやれよ?」
「こんな時まで何言ってんだよ…。」
 言葉に詰まったアムルの様子に、デッシュは笑い頭をクシャクシャと撫でる。
「そんなシケた顔すんなよ。オレが下にある装置で海峡を塞いでる渦潮を消すから、お前たちはドワーフの住む島を目指せ。そこに炎の力がある筈だ。
下に行ったら、お前達を外に転移させてやるよ。じゃあな、元気でな!」
 その言葉を最後にデッシュは軽く手を振り、炎渦巻く動力炉へ姿を消した。
「…おそらく、こうなる事は気が付いていたんだろう。」
 何も言えず黙り込む3人の後ろからユリアスは静かに呟き、ロトは目を伏せた。
その直後、4人を眩しい光が包み込み、次に目を開いた時には4人は塔の外へと立っていた。

───塔が赤い炎を上げて崩れ去ろうとする時、「運命」を変える男は目覚める───

崖の上から海を見てアムルが海峡を指差す。すると、次第に渦潮の流れが弱まり4人の見る前でその姿を消していった。
「デッシュは気が付いていたんだ。あの予言を聞いた時から…。」
 風が海峡を渡り吹き抜けて空へと舞い上がり、それを追うように空を見上げロトは目を閉じる。
「…だけど…私達は、まだ…何も…。」
「前に進むしかない…よね?」
 ロトが振り向くとユリディナが笑って見せる。
「ヤツが命がけで開いてくれた道だ。私たちも、ここで立ち止まっている訳にはいかんぞ。」
 続けてユリアスが呟き、帽子を被り直す。
「デッシュは今も自分の運命と戦ってる。オレ達も…行こうぜ。」
 そう言ってアムルは拳を見せ、ロトは笑って軽く拳を合わせる。
「…行こう。ドワーフの島へ…!」
 ロトの言葉に4人は頷き合い、海岸で待つエンタープライズに向かい歩きだした。


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