トックルの西…大陸南部に広がる砂漠に砂煙の合間に見え隠れする不気味な浮遊物体がある。
「…あれがトックルの村で言ってた城?」
目を細めアムルが呟く。
トックルの村はバイキングの頭の言う通り酷い状況だった。
昼間だと言うにも関わらず静まり返り、人の気配はするものの外に姿は見えない。
どうにか村長を見つけ聞くことの出来た事は、ある日突然、西の砂漠より兵士がやってきて村を略奪し若者達を連れて行くと言う話だった。
そして、その兵士達がつけて居た紋章がアーガスの物と言う事……。
「まさか本当にアーガス王が…?」
ロトが呟くとデッシュが首を傾げる。
「だが、アーガス王城はここより北の平野にある。それが何であのヘンテコの方向から来るんだ?」
「…ともかく、アーガス城へ行ってみるしかあるまいな。あれに入る手段が分からんからには出来る所から潰していくしかあるまい。」
そう言ってユリアスは4人を促し船へと向かって歩き出した。
内海を船で北に進むと対岸の平野に堅牢な城壁が見え始める。
しかし、大陸最古の城と言われるその場所で目にしたものは静寂だけが周囲を包むもぬけの殻の状態だった。
「こりゃ…どう言うこった。」
デッシュがお手上げと言うように肩をすくめ、ユリアスも考え込む。
「何と言うか…詰んだ感じだな。バイキングの話だと内海から外海に抜ける唯一の海路も渦巻きが出来て出れなくなったって言うし…。」
アムルが溜息をつく隣でユリディナは部屋の机に広げたままになっていた地図を見つめ口を開いた。
「でも、まだ行ってない所ある気がする。この地図、西の山に集落の印つけてあるよ?」
その言葉にロトも地図を覗き込む。
「本当だ。ここって何か危険な場所でもあるのか?」
「そこは確かグルガン族が住むと言われている谷だ。…そうだな、グルガン族は不思議な力を持つと言う。何があったのか…分かるかもしれんか。」
ロトの問いにユリアスが呟くと3人は顔を見合わせ笑みを交わし、デッシュはその様子に微笑んだ。
次の目的地をグルガン族の谷へと決めアーガス城を出た時だった。
突如、風を切る音が聞こえ突風が5人を襲う。
「な…なんだ!?」
体勢を立て直しアムルが空を見上げると、そこには半人半鳥の妖異の姿があった。
「…フリアイだと!?なんでこんな所に居るんだ!?」
デッシュが驚き剣に手をかけた時、半人半鳥の妖異・フリアイは奇声を上げた。
その声は平衡感覚を狂わす力を持ち、聞いた者は一時的に身動きが取れなくなる。
その隙を狙ってフリアイは、ユリディナ目掛けて一気に急降下を仕掛けて来た。
「ユリディナ!」
頭を振り、それに気が付いたアムルが咄嗟にユリディナの前に飛び出した。フリアイの鉤爪は咄嗟の事で防御する間もなかったアムルの左肩から切り裂き周囲に血が舞う。
「この…!!」
身体の自由が戻った所でデッシュが放ったサンダラがフリアイを捕らえ、それに怯んだフリアイはその場から飛び去った。
それに溜息をつきデッシュは4人の傍へ近づく。
「…ごめ…ごめんなさい…っ私のせいで…。」
地面に倒れたアムルに必死に回復魔法をかけつつユリディナは涙を流し、その様子にロトは静かに首を振る。
「ユリディナのせいじゃない。」
「でも…!!」
ロトの言葉にユリディナが口を開きかけた時、回復を続ける彼女の手をアムルが握る。
それにユリディナがアムルの顔を見ると、アムルは僅かに目を開く。
「…オレは…だいじょうぶ……だから……。」
そう言って小さく笑い、アムルは目を閉じる。
「ユリアスっ…。」
「大丈夫だ。もうじき…傷口が閉じる。」
ユリアスの答えにロトは少し表情を緩ませる。
「…私の目の前で、お前達は死なせはせん。」
「もうすぐグルガン族の谷だ。急ごう。」
傷の応急処置を済ませた所でデッシュがアムルを抱き上げ、その言葉に3人は頷くとグルガン族の住む谷へ急ぎ歩き出した。
「ご安心なさい。もう大丈夫ですよ。」
グルガン族の谷で、アムルの傷の具合を見た女性が微笑むと、ロトは安心した顔をし頭を下げた。
「体力の回復にはもう少し時間がかかると思いますが…気に病まないで。あなたは何でも背負い込むようですから…。谷を見て回ると良いわ。気晴らし位にはなるでしょう。」
「はい…ありがとうございます。」
女性の言葉にロトは礼を言いつつ部屋を出た。
「流石はグルガン族…不思議な力を持つ者が多いと聞いては居たが、人の波長で性格が分かるようだな。」
部屋を出た所で声をかけられロトが驚き顔を上げると、壁によりかかっていたユリアスは帽子を被り直す。
「何でも1人で背負い込むな。そのままでは、身体がもたんぞ。」
「…うん…ごめん…。」
自分の言葉に俯いたロトの姿に、ユリアスは肩をすくめる。」
「すぐ謝るのも悪いクセだ。…谷を歩くついでだ。デッシュを探すぞ。1人で何処をほっつき歩いてるんだか…。」
そう言って歩き出したユリアスを、ロトは小さく溜息をつき前髪をかき上げると後ろからついて歩き始めた。
暫く無言で2人は谷を歩く。その間、ロトはずっと左肩を押さえ少し辛そうな顔をしていた。
暫く歩いた所で、眼下に湖が見える場所でユリアスは立ち止まる。
「…双子とは不思議なものだな。」
「え……?」
唐突なユリアスの言葉にロトは戸惑い顔を上げた。
「片方に何かが起こると、もう片方にも異変が起きる。その何かが大きければ大きいほど…命に関わるような事であれば尚更。ロト、今のお前達もそうだろう。アムルの苦しみがお前に影響している。左肩から引き裂かれるような激痛が走るのだろう?」
その問いにロトは黙って俯き、ユリアスは溜息をつく。
「やはりな。お前は言わないが顔に出ているぞ。…ロト、双子はな、1人で背負うには大きすぎる運命を2人で乗り越えて行けるようにクリスタルが生命を分けるのだと言われている。
お前は弟のためならば、自分の命を捨てようとするだろう。だが、それではダメなのだ。遺されたほうもいずれ運命に押しつぶされる事になる。
弟の事を本当に思うのであれば、まず自分の命を大切にしろ。良いな?」
「……うん……。」
ユリアスが振り返るとロトは湖を見つめたまま頷く。その様子に笑みを見せるとユリアスは軽くロトの頭を撫でた。
「何やってんだ?こんな所で。」
そこへ道の反対側からやってきたデッシュが2人に気が付き声をかけてくる。と、そこでロトの様子に気が付き顔を覗き込んだ。
「ロト、大丈夫か?顔、真っ青だぜ?」
「え?そ、そうか?別に大丈夫だよ。」
デッシュに言われロトは無理に笑って見せる。その様子にユリアスは眉間に皺をよせた。
「……ロト。今言ったばかりだろう。無理をするな、休んでいろ!」
するとロトは急激に睡魔に襲われ、その場に倒れそうになったのをデッシュが慌てて抱きとめた。
「おいおい…一体どうしたんだ?」
「スリプルを使っただけだ。こやつの場合、こう言った状況になると無理にでも眠らせんと休もうとしないからな。」
デッシュはロトを抱き上げると呆れた顔をする。
「ユリアス、あんたもだが…気負い過ぎてるんじゃないか?光の戦士って名に押しつぶされそうだぜ。」
デッシュの言葉にユリアスは少し驚いた顔をして苦笑する。
「…確かにそうかもしれんな。」
そう言って、帽子を深く被りなおした。
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