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ネプト神殿

 バイキングのアジトを出た5人は海岸線沿いを岬に向かい歩いて行く。
途中、両脇に広がる海は波穏やかで海竜が暴れているとは想像も出来なかった。
半日程して岬の先の神殿に辿りついた5人は薄暗い神殿内に足を踏み入れた。
中はひんやりとした空気が漂い自然と身が引き締まる。
と、そこでユリディナが隣を歩いていたアムルの上着を握り締めた。
「…ん?どうした?何かあるのか?」
 アムルが問いかけると、ユリディナは奥を見つめたまま少しアムルの陰に隠れる。
「奥に…何か…なんだろう、怒ってる?困ってる…?色々、混ざっちゃってる…。」
 ユリディナの少し怯える様子にロトとアムルは顔を見合わせ慎重に奥へと進む。
通路を抜けた先…そこに淡い光に浮かび上がる竜の像が姿を現した。
海竜ネプトを模したと言われる、その石像は5人を見つめるように鎮座していた。
「これが…ネプト竜…。」
 石像を前にその大きさに唖然として呟いたロトだったが、そこでふとした違和感に石像に近づいた。
「…あれ?左目が…。」
 その声にユリアスも石像に近づく。すると、確かに左目があった場所にぽっかりと暗い穴が開いていた。
「これって、前はちゃんと両方あったんじゃないか?」
「…竜が暴れ出したのと何か関係が…?」
 石像に開いた穴に明かりを当て覗いているユリアスの後ろから覗き込んでいたデッシュが呟くとロトも首を傾げる。
「かすかに風の流れがある。奥に入れるようではあるが、どうする?」
「どうするって…他に変わった事がなさそうなら行ってみる…しかないよな?」
 ユリアスの問いにロトが答えると、アムルとデッシュは露骨に嫌そうな顔をする。
「まあ、それしか無かろうな。ユリディナ、ミニマムを。」
 その言葉にアムルとデッシュは大きく溜息をつき肩を落とす。その様子にユリディナはクスクスと笑いつつ魔法を唱えた。
ネプト像の内部は狭いながらも空洞が奥へと続いていた。そこを可能な限り進んでみようと5人が進んで行った先に、不意に黒い影が立ち塞がった。
「…どうやら、泥棒さんはこいつの様だ。」
 目の前に現れたのは通常よりも大きなネズミだった。その大ネズミの後ろにはネプト像の右目と色違いの宝石が転がっている。
すると大ネズミは5人が話していた事を理解したかのように突如襲い掛かってきた。
大地震の後、各地で現れた妖魔の影響だったのか…魔法を行使する大ネズミを何とか撃退すると、大ネズミの体から黒いもやのような物が滲み出し、その体を包み込んだ。
そして、その黒いもやが消えると大ネズミの姿も跡形もなく消え去っていた。
「何だったんだ…あれ…。」
 息を整えつつアムルは消えた大ネズミが居た場所を唖然として見つめる。
「あんなネズミまで…魔物化するなんて…。」
 ポツリと呟き、ロトは硬い表情のまま大ネズミが居た場所を見つめていた。
その様子にデッシュは首を振り溜息をつくと、目の前に転がる赤い宝石に近づく。
「…なあ、こいつを竜の像に返してやった方がいいんじゃないか?きっと目が無くなって怒ってるのかもしれないぜ?」
 デッシュの声に我に返り、ロトは宝石に目を向ける。
「…そうかもしれないな。ユリディナ、宝石にもミニマムをかけてもらえるかな?ネプト竜に返しに行こう。」
 ロトの言葉にユリディナは頷くと、宝石に手を当て魔力を紡ぎ始めた。
来た道を辿り神殿に戻った5人は、ネプト竜の像の穴の空いた左目に赤い宝石をはめ込む。
すると、かすかに竜の咆哮が聞こえそれに続き、ネプト竜の像が淡い光を放ち始めた。
『…宝石を取り戻してくれた事…礼を言う。』
 神殿内に声が響き5人は辺りを見回す。すると、ネプト竜の像がまるで生きている様に動きその身体をくねらせた。
『私は海竜ネプト。赤い宝石は私の心…この宝玉が無くなると、竜そのものだけが残り本能のままに暴れ出してしまうのだ…お陰で再びこの地に眠り水を守る事が出来る…。
しかし…水はその光を、力を失ってしまった。何者かが大地震を引き起こし光を地中深く封じ込めたのだ。お前達にこれを授けよう…。』
 そう言って、ネプト竜が咆哮を上げると水が集まり水球を作り出す。そして、それが弾けると中から青い淡い光を放つ牙型のクリスタルが現れる。
『水の力で行く手を遮るものを打ち砕く…水の牙だ。光の戦士よ…頼む…この世界に光を取り戻してくれ…。』
 その言葉を最後に目の前のネプト竜は水に包まれ、その水は5人を飲み込んだ…ように見えた。
思わず目を閉じたロトが目を開くと、そこには何事も無かったかのようにネプト竜の像が静かに佇んでおり、その前には水の牙が宙に浮いていた。
それをそっと手に取り振り返ると、ユリアスは黙って笑みを浮かべ頷いた。
5人が神殿から出てきた時だった。
「やったな!お前ら!」
 その声に下を見ると船長がエンタープライズから手を振っている。
「船長さん!ここまでその船で来たって事は…。」
 ユリディナが問いかけると、船長は満面の笑みを見せた。
「おう!嬢ちゃん!ネプト竜が鎮まった。これでまた海に出られるぜ!だが、その前に…飲んだくれてるヤツらを叩きなおさんとな。そんな事より約束どおり!エンタープライズはお前らの物だ。大切にしてくれよ?旅に必要な物は一通り積んでおいた。このまま海に出れるぜ!」
「…本当に良いのか?無傷の船はエンタープライズだけなのだろう?」
 ユリアスが問いかけると、船長は豪快に笑う。
「細かい事は気にするんじゃねぇよ。心配すんな、オレ達はバイキングだ!船は幾らでも造れば良い。直せば良い。だが、お前らの旅は立ち止まっては居られねぇんだろ?さぁ、乗った乗った!」
 船長はそう言って、5人を船に乗り込ませる。それにロトが頭を下げようとすると、船長は肩を押さえた。
「頭は下げるなよ、兄ちゃん。礼を言うのはこっちの方だからな。」
 ニッと笑い船長はロトの頭を軽く叩く。
「さあ、出港だ!気をつけて行けよ!!」
 船長の声を合図にエンタープライズはゆっくりと水面を滑り出した。

 岬を出発しアムルが同乗してくれているバイキングに操船を教わっている時、ユリアスは甲板で海を見つめるデッシュに気がつき声をかけた。
「何をしている?こんな所で…。」
「…風が気持ちいいなと思ってね。」
 そう言ってデッシュは黙り込んだが、その顔には隠そうにも隠せない笑みが浮かんでいる。
「…顔が笑っておるぞ?」
「いやー、やっと船に乗れたからな。これであっちこっちの美人を探しに…。」
 その答えにユリアスは溜息をつく。
「サリーナに教えてやるかな…。」
「嘘!嘘だって!!」
 カナーンの町で世話になっていたサリーナの名を出されデッシュは慌てて否定する。その反応に少し意表を付かれつつもユリアスは笑いを堪えた。
そんなユリアスにデッシュは話題を変えようと考えを巡らせる。
「あー…えーっと…あ、ああ!アーガス王が飛空挺の秘密を知ってるって聞いたが…お前さん達、アーガス王に用があるんだろ?」
 デッシュに問いかけられ、ユリアスは顔を上げる。
「そうなのだが…バイキング達から気になる話しを聞いた。少し先にトックルという村があるそうなんだが…最近、アーガスの兵士が略奪に来るのだという。」
 それにデッシュは眉をひそめた。
「それって…ヤバい感じがするんだが?」
「まぁな。取り合えずトックルに行ってみるしかあるまいな。」
 そう言ってユリアスは進行方向に目を向ける。
そこには、山の麓にある小さな集落の家々が見え始めていた。

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