鬱蒼と木々が生い茂り、大地震の後に竜が住みついたと言う話で人が立ち入らなくなった山道を4人は周囲を警戒しつつ進んで行く。
「本当にこの山に入ったのか?デッシュとか言うヤツは…。」
行く手を遮るように枝を伸ばす木々を退けつつ先を歩くアムルがぼやく。
カズスで無事に呪いの解けたシドと再会しシドを自宅のあるカナーンへ送った後、シドから飛空挺を作ってやろうと提案される。
その為に、海を渡った先にあるアーガスへ向かう事になったのだが…。
「徒歩でミラノス山脈を越えるには、どちらにしろこの山を越えねばならん。本当にしろ嘘にしろ、デッシュが持つミニマムの魔法がなければ先には進めん。小人の村に入れんからな。」
ユリアスの言葉にアムルは溜息を吐き、再び黙々と進み始める。
アーガスに向かうには、定期船が動かなくなっている今は徒歩で向かう以外に方法はなかった。
しかし、途中で小人の集落にある抜け道を使う他無く、その小人になる為のミニマムの魔法の最後の1つをデッシュと言う旅の男が買って行ったのだと言う。
その男は4人と入れ違いでカナーンを旅立ったと言い、4人はデッシュを追いかける形で竜が住むと言われるジェノラ山へとやってきたのだ。
その時、退けた枝が跳ね返りアムルの顔に直撃する。
「……あーーーー!面倒くせぇ!!」
暫し痛みで固まった後にアムルはやり場の無い怒りを叫ぶ。
その様子に苦笑しつつ2番手を歩くロトはユリアスとユリディナが歩きやすいように、アムルが進んだ道の危ない枝葉を2人が抜けるまで押さえたりして進んで居た。
山に入ってから3時間程度たっただろうか…少し前を歩いていたアムルが驚きの声をあげる。
それにロトとユリアスは顔を見合わせ、ロトは2人に少し待つように伝えて先に進む。
「アムル、どうか…。」
木々の合間を抜けアムルに声をかけたロトは、目の前に広がる光景に言葉を失った。
そこは今まで鬱蒼と茂っていた木々が切れ、眼前には息を飲む様な雲海が広がっていたのだ。
その美しい景色に暫し見とれていた時、不意に地面に陰が落ちる。それに、ロトは今、自分達が置かれている状況を思い出す。
ここは竜が住むと言われている場所。ここに来るまで日光を遮るように枝を広げていた木々が途切れると言う事は、そこを狙って竜が待ち伏せていてもおかしくは無いのだ。
「アムル!気をつけろ!!竜が来る!」
ロトが叫ぶとアムルは咄嗟に伏せ、そこを竜の爪が掠って行く。そこへロトが慌てて駆け寄りアムルを立ち上がらせる。
「2人共!後ろ!!」
ユリディナが声を上げるのと同時に崖下から一気に竜が上昇し、その風圧でバランスを崩した2人を竜が鷲掴みにして舞い上がる。
「ちょ…嘘だろ!?」
アムルの悲鳴を他所に竜は大きく羽ばたくと山頂へと姿を消した。
その行き先を見上げ、ユリアスは溜息をつく。
「…直ぐに殺さず連れ去ったと言う事は、今すぐ餌にされる事はなるまい。ユリディナ、急ぐぞ。2人が餌にされる前にな。」
それにユリディナは頷き、2人は山頂へと続く道を進み始めた。
一方、竜に連れ去られた2人は山頂付近にある巣の中に居た。
竜は2人を巣に放した後、再び獲物を探す為に飛び立って行った。
「直ぐには…餌にはされなさそうか…。」
呟きロトは腕を押さえた。そこは竜に掴まれた際に爪に引っ掛けたのか血が流れ出していた。
「大丈夫か?」
アムルが直ぐにポーションを取り出しロトに手渡す。と、その時、背後のからガサゴソと物音がすることに気がつき2人は咄嗟に身構えた。
「お?おやまあ、こんな所で人に出会うなんて!お前さん達もあの竜に捕まったのか。ドジだねぇ。」
巣から顔を出したのは黒髪の男だった。唖然とする2人を横目に男は連れて来られた2人を笑う。
「…そう言うあんただって…。」
男の勢いに圧倒されながらアムルが呟くと、男は一瞬真顔になり再び陽気に笑う。
「そうかそうか、そう言えばそうだな。オレはデッシュ。実はオレ、記憶喪失でね。名前以外思い出せないんだが…。」
デッシュがそこまで言った時、再び竜の羽音が聞こえてくる。
「って、竜のお帰りだ!取り合えず隠れろ!!」
慌てて3人は先程デッシュが出てきた巣の穴に身を隠した。戻って来た竜は暫く上空を旋回していたが、やがて再び獲物を狙うために巣から遠ざかって行った。
遠ざかる羽音に3人は無事にやり過ごせた事に、安堵の溜息をもらす。…巣の下の方から呼びかける声が聞こえたのはその時だった。
アムルは周囲に竜が居ない事を確認し下を覗き込むと、巣の下の岩場で木陰に身を隠すユリアスの姿が見える。
それに安堵し巣の中に残る2人に伝えると、3人は巣から飛び降りた。
「ふー…危ない所だったな。」
巣から脱出し、木陰でユリアスとユリディナに合流した所で、デッシュは大きな溜息をつく。その姿に呆れつつユリアスは口を開く。
「…デッシュ…だな?お前を探していた。」
その言葉にデッシュは首を傾げると、ロトが頷いて見せる。
「貴方がカナーンで最後のミニマムの魔法を買ったと聞いたんだ。ミラノス山脈を抜けるには小人の集落に入らないといけないから…。」
「ああ、そう言う事か。譲ってやっても良いが…その代わり条件がある。オレも旅に同行させてくれ。オレには何かやらなきゃいけない事がある。
…それが何だか思い出せないんだが…お前さん達と一緒に旅をしてれば、それが何か思い出せるかもしれん。」
デッシュの申し出に4人は顔を見合わせる。少し考えた後にユリアスが頷くとデッシュは笑みを見せた。
「そうか、なら決まりだ。よろしくな!」
その後、暫く様子を見たが竜が戻ってくる気配も無くデッシュを加えた5人はミラノス山脈の麓をにある小人の集落を目指し、竜の住む山を後にした。
山を降りそれに続く森を進んだ先でミニマムの魔法を使い無事に小人の集落・トーザスに入ることが出来た一行は、山脈を抜ける抜け道を教えて貰い先を急ぐ。
その抜け道の道中…
「あーあ…こんなに小さくなっちまって…情けないな。」
「…デッシュ…少し黙ってくれないか…?」
抜け道に入ってから、ずっとブツブツ言っているデッシュにロトは苦笑しつつ声をかける。
「ロトはつれないねぇ。アムルは付き合ってくれるのに。」
「デッシュが勝手に付き合わせてるんだろ!てか、やめ!苦し…。」
首に腕を回し力を込めるデッシュの腕を、アムルは必死に叩く。その様子に満足したようにデッシュはアムルを放すと、後ろを歩いているユリアスの方へとやって来る。
「…ユリディナ、先に行きなさい。」
何か聞きたそうなデッシュの雰囲気を察し、ユリアスが声をかけるとユリディナは先を行く2人の方へと駆けていく。
「良い妹だな。」
「本当の妹ではないがな。私はあの子達の育ての親みたいなものだ。…だが、聞きたいのはそんな事では無かろう?」
ユリアスが問いかけると、デッシュは驚いたように肩をすくめる。
「ユリアス…あんた何者だ?なんか…こう…他のヒト達とは違う時間の流れを感じる。」
「…何者と言われてもな…。見ての通りエルフだ。ただ、人間達からは上位古代エルフ…ハイエンシエントと呼ばれる部類ではあるから、多少珍しくはあるかもしれんな。
ああ、それと私の場合は片親がダークエルフなのでな。見た目的にも珍しいかもしれん。」
その答えにデッシュは首を傾げる。
「確かにそれは珍しい…って、いや、オレが言いたいのはそう言う事じゃなくてだな…。ジェノラ山の竜の巣で聞こえた竜言語…あれ、あんただろ?
ロトとアムルは竜の羽音に気を取られて気がついてなかったが…竜が旋回してた時、巣の下から竜に話しかけてるのが聞こえたぜ。いくら古代上位エルフって言っても竜言語…しかも、あの竜はバハムートだ。その神竜王に話をつけるなんて…。」
「おーい、2人共!出口が見えたぜ!」
デッシュがそこまで言った時、先を進んで居たアムルが呼びかけてきた。
「いきなり外に出るんじゃないぞ。油断はするな。」
そう言ってデッシュには話を切るように軽く手を振り笑って見せると、ユリアスは出口に向かい足を速めデッシュも諦めた様に肩をすくめ後を追う。
外に出てミニマムを解くと、アムルは大きく伸びをする。
「あーーー何か疲れた…。」
「まったくだ…。」
その隣にデッシュは並び同じ様に伸びをする。その様子を笑いつつロトは地図を見た。
「ここの谷を抜けるには…。」
「少し先の入り江にバイキング達のアジトがある。そこに行く。」
地図を指差したユリアスの言葉にロトは眉をひそめる。それに気がつきユリアスは笑みをもらす。
「心配しなくても良い。ここのバイキングの頭は話の分かるヤツだ。」
そう言われても少し不安は残るものの、かと言って他に道がある訳でもないためロトは躊躇いつつ頷き5人はバイキングのアジトを目指し歩き始めた。 ミラルカ谷を少し進んだ所にぽっかりと口を開けた洞窟がある。
海水の浸食で岩が削られ出来たその洞窟は、バイキング達の隠れ家として使われている。
そこへ足を踏み入れた時、ユリアスが首を傾げ呟いた。
「…何か…変だな。」
その言葉にロトがユリアスを見るが、彼は何も言わずに1人で先へと進んでいく。
「あ!おい、ユリアス!」
それに4人は慌てて後を追った。
自然に出来た洞窟は複雑に岩を削り、そこをバイキング達は部屋として利用し生活をしている。
しかし、突然やって来た5人を訝しげに視線を向けるもののバイキング達はすぐに興味を無くす様子だった。
そんな様子にユリアスが最初に言った意味に気がつき、アムルとユリディナは顔を見合わせる。
暫く奥に進み谷の反対側の出口が見え始めた所で、ユリアスは1つの部屋を覗き開いている扉を軽くノックした。
すると、部屋の中で椅子に座り気だるそうにグラスを傾けて居た男が振り返る。
「久しぶりだな。」
腰に手を当てユリアスが声をかけると、男は驚いて立ち上がった。
「…!お前…ウルの魔道士じゃないか!」
「おい、ユリアス…何がどうなってんだ?」
そこへ4人も追いつきデッシュがユリアスに問いかけると、バイキングの男は肩をすくめる。
「何だ、今日は随分と大人数じゃねぇか。まあ、立ち話もなんだ。中に入りな。」
そう促され、5人は部屋の中へと入った。
「ユリアスには以前、病人が出た時に世話になってな。」
そう言って、ここのバイキングの男…ここを仕切っている船長は笑い見せ壁に寄りかかる。
「…で、何があった?他のヤツらもだ。様子が以前と全然違うようだが?」
ユリアスが問いかけると、船長は大きく溜息をつく。
「1ヶ月前の少し大きめな地震の後の事だ…。ここの先の岬に海竜が現れて暴れ始まったんだ。俺たちの船はエンタープライズを残して全部沈められちまった。
エンタープライズは無傷だったが…。爺様の話じゃ海竜はネプト神殿で眠っていたネプト竜らしい。」
「1ヶ月と言うと…私達が祭壇の洞窟に行った時の揺れの事かな?ネプト神殿っていうのは…?」
ユリディナが首を傾げると船長は洞窟の出口からうっすらと見える岬の先を指差す。
「岬にある建物だ。海の守り神として海竜ネプトが祀られているのさ。」
「その守り神様が暴れてるのか…。」
岬の先に見える神殿を眺めつつアムルが呟く。
「そんな訳で、船を出そうにも岬から先には出れねぇ。もし、お前さん達が海竜をどうにかしてくれるならエンタープライズをくれてやっても良い。どうだ?」
「…気前の良い話だな。とは言え、海竜をどうにかしろ…か。」
船長の言葉にユリアスは溜息をつくと、隣で考え込んでいるロトを見た。その視線に気がつきロトは顔を上げる。
「幾らなんでも守り神様として祀られてる海竜を倒すのなんて無理だと思うけども、一ヶ月前と言うのが気になるんだ。とりあえず神殿に行ってみるしかないかな…何か手がかりがあるかもしれないし…。」
その言葉に他の4人も黙って頷いた。
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