戦いが始まってからどの位の時間が経ったのだろう…漠然とそんな事を考える。
周囲を包む暗雲に時間の流れが麻痺する中、幾度となく放たれる波動砲を耐え立ち上がる。
盾を持つ腕が酷く重く全身が悲鳴を上げていた。
過ぎ去った魔力の波の後に剣を支えに立ち上がると、すぐさま癒しの魔法が飛んでくる。
和らいだ身体の痛みに僅かに振り向くと、力なく座り込むユリディナと大きく肩で息をするユリアスの姿が見えた。
その姿に安堵するが、こちらの限界も確実に近づいている。
アムルを見ると彼も視線に気が付いたのか僅かに笑って答えるが、咳き込み口元を拭う。
「あくまでも抵抗すると言うか…諦めの悪い…。」
そう言った暗闇の雲だったが、その力にも陰りが見えていた。
その姿を確認しつつユリアスは胸に手を当てる。すでに魔力の限界が来ている…次に撃てる魔法が最後になるだろう。
「…ユリディナ、次に仕掛ければおそらくヤツは再び波動砲を撃ってくる。私に回復はいらん。その分を2人に回せ。」
ユリアスの言葉に、ユリディナも覚悟を決めたように頷く。
それに優しく微笑みユリアスは魔力を紡ぎ始め、それに気が付いた暗闇の雲が無数の波動球を放つものの、ロトとアムルがそれを防ぎ消滅させる。
『夜闇の翼の竜 怒れしば我と共に 胸中に眠る星の火を!』
詠唱の完了と共に頭上に魔法陣が浮かび上がる。そして、そこから姿を現した神竜王バハムートの咆哮が響き渡った。バハムートは大きく息を吸い込みブレスを放つと、それは暗闇の雲を飲み込み激しい閃光と共に爆発を起す。
そこで、ユリアスは走り出すと魔法障壁を展開させた。同時に波動砲が4人を襲う。
「…あとは…お前達に任せる。」
そう言って静かに笑みを浮かべ、波動砲を防ぎ切るとユリアスはその場に力無く倒れこんだ。
「ユリアス!」
ロトが声を上げた時、ロトとアムルを癒しの光が包み込んだ。今まで以上に回復する体力に2人が振り向くとユリディナは黙って頷く。
「……任せろ。」
アムルが笑い魔剣を引きずり立ち上がりロトを見ると走り出す。それにロトも頷きユリディナに微笑むと走り出した。
暗闇の雲が手を払い床から魔力が突き上げ迫るのを、アムルは自身に障壁を張るとそのまま魔力の柱へと突っ込む。
そして、それを抜けると同時に残った力を闇の力へと変換させ魔剣にまとわせ振り抜いた。
振りぬかれた魔剣は暗闇の雲を捕らえ、妖魔は大きく体勢を崩す。
そこへ正面からロトが走りこみ、跳躍すると剣を振り下ろす。
剣には確実な手ごたえが伝わってくる。
「よもやここまでとは…今、わしを倒したとていずれ全ては無へ還ると言うのに…。」
「…クリスタルが私達を選んだように…まだ希望が残っている。それを…消す訳にはいかない…!」
ロトが答えると、暗闇の雲は呆れたような笑みを浮かべる。
「ふん…あくまで運命に抗おうと言うのか。つくづく興味深い生き物よ…。
今は再び眠りにつこう…。だが…わしは滅びぬ…。いずれ、調和が乱れた時…再び…。」
その言葉と共に暗闇の雲は身体を抱え込む様に身を丸め、闇へと溶ける様に姿を消した。
それと同時に、周囲を覆っていた暗雲も一瞬で掻き消える。
そこには、澄み渡った空に光り輝く満天の星が広がっていた。
──最初は何もない無の世界だった。
ある時、光と闇ができ……そこから全てが生まれた。
星、月、水、火……そして命。
時はそれをまた、元の場所に還そうとする。
だが、命はさらに別のものを生み出した。
光と闇を分け、その輝きをもって世界を照らし出すもの
希望と言う力を……
いつかまた、光と闇が重なり……全てが無に還ろうとする時、
それを2つに分ける者が現れる。
忘れてはならない。
その者に力を与えているものは
人々の希望だと言う事を……
時は全てを押し流す。
夢、絶望、愛……
だが、それを受け入れてはならない。
そこに見出さねばならない。
最後に残った1粒の輝き
全てを照らし出す輝き
……希望を……
『…ロト…起きて…。』
自分を呼ぶ声にロトは目を覚ます。周囲は暗く何も見えない。
そこで、自分の上に浮かぶ光の球に気がつき身体を起すと、それは弾けて光竜の姿となる。
「あ……。」
ロトが無意識に懐にしまった光竜の羽根に手を当てると、光竜は静かに頷く。
『もう…本当にお別れ。私も行かなくては。』
「そう…か。今まで、ありがとう。」
ロトが頷くと光竜は首を振る。
『私の方こそ…礼を言わなくては。あの方を…ザンデ様を止めてくれて…暗闇の雲を消してくれてありがとう。さぁ、君も目を覚まさないと。仲間が…呼んでいるよ。』
光竜は微笑み舞い上がる。ロトがそれを見上げ立ち上がると光が彼を包み込み、周囲が光に包まれた。
「う…。」
小さく呻き声を上げ目を開くと、そこにはロトを覗き込み3人の姿があった。
「良くやったな。大丈夫か?」
ユリアスが問いかけロトが身体を起こすと、アムルが腕をまわして肩を組みユリディナはその様子に涙ぐみながら笑顔を見せる。
それをロトはなだめながら自分の手を見つめる。
「…本当に…倒したんだな…。」
ポツリと呟くと、ユリアスは黙って頷いた。そこで、周囲に竜の咆哮が響き渡る。
それに空を見上げると、4人が最初にやって来た場所の上空に光輝く竜が旋回しており、やがてそれは光の粒と化し光の柱が立ち上る。
「門が開いたか。」
ユリアスが呟く中、3人は呆然とその光景を見つめている。
その様に呆れた顔をし、ユリアスは軽く手をならした。
「何をボーっとしている。さぁ、戻るぞ。私達の帰る場所…光の世界へ!」
その声に3人は顔を見合わせ頷いた。
シルクスの塔・屋上…
光の戦士の帰りを待つ5人の前に立つ柱の間に一筋の光が走り、門が口を開ける。
5人が固唾を飲んで見守る中、ユリアスが姿を見せ続いてアムルとユリディナそしてロトが門をくぐり、それを最後に門は閉じる。
そこに待つ5人の姿を見回し、ロトは静かに頷く。
「…ただいま。終ったよ、全て。」
その言葉に5人は歓声を上げ、サラは涙を浮かべてロトに抱きつく。
「おかえりなさい…!」
そう言って言葉に詰まるサラをロトはそっと抱きしめ落ち着かせ、顔を上げるとその場に居る全員の顔を見て頷いた。
「さぁ、皆…帰ろう!」
ロトの言葉に各々シルクスの塔の屋上から降りて行く。
最後尾を歩いていたロトは階段を下りる手前で立ち止まり、もう1度屋上広場を振り返る。
登り始めた朝日に輝き始めたその風景を心に刻み、軽く目を閉じるとその場を後にした。
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