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最後の死闘


 風のクリスタルの元で小休憩を取っていた時の事…。
各々が最後に待つ暗闇の雲との戦いに準備をして居た時、アムルは1人…崩れた遺跡の壁に座って遠くを見つめていた。
「どうした?こんな所で。オレの封印を解いてくれた時はもっと元気良かったじゃないか?」
 後ろから声をかけられ振り返ると、そこには竜騎士レディアルが立って居た。
「この先って…何も無いんだろ?」
 アムルがポツリと呟くと、レディアルは軽くジャンプするとアムルの隣に着地する。
「ここは暗闇の雲の支配領域だから何とも言えないが…恐らくあるのは虚無だけだろうな。」
 その答えにアムルは俯く。
「無の力って何なんだ?全てを飲み込み消滅させる力って…。」
 アムルの問いにレディアルは軽く首をかしげつつ頭を掻く。
「全ての始まり…全ての終わり。世界が混乱し淀みが溜まった時にそれを初期化する自然現象…なんだろう。だが、クリスタルがオレ達を選んだと言う事は世界はまだそこに生きる命に絶望していない。
まだその時じゃ無いって事さ。」
 暫しの沈黙。
「……あーーー!!やっぱ考えるのは止めた!オレはオレの出来る事をやる!」
 煮詰まったのか…溜息をついた後にアムルは大きく伸びをする。その姿を笑ってレディアルが見ていた時、ロトが2人を探してやって来た。
そして、壁の上に居る2人の姿に苦笑し腰に手を当てる。
「こんな所で何やってるんだ?」
 その声にアムルは振り返り軽く手を振る。そこでロトは同じく振り返り言葉を失っているレディアルの姿に首をかしげた。
「どうかしたのか?レディアル…。」
 ロトが声をかけるとレディアルは我に返り、笑みを見せた。
「いや、すまん。本当…ロトはラザにそっくりだな。」
「ラザフォードに?」
 ロトが不思議そうに問い返すとレディアルは壁から飛び降りる。
「ユリアスから聞いたが…お前達が風の民だって聞いて納得したよ。お前達は間違いなくラザの血を引いてる。」
 その言葉にロトとアムルが顔を見合わせると、レディアルはロトの持つ小剣を指差した。
「その小剣は親父さんの形見だって言ってたろ。代々、家に伝わって来たって。」
 それにロトが頷くとレディアルは腰に手を当てる。
「それな、ラザの物なんだわ。」
「え!?」
 ロトが驚いて小剣を見ると、レディアルは面白そうに笑みを漏らす。
「ルシフェルが戻って来た時に言ってたんだが…ラザは時間凍結が発動する戦いの前に、大切な女性にそれを託したんだと。
んで、その人はラザが居なくなった後、風の大陸…浮遊大陸だな、そこの仲間の元に帰ったと。
その後、下の世界は時間が止まっちまったんだが、浮遊大陸では世代が変わってお前達が生まれたって所だな。」
「…余計な事を教えるな。」
 その声にロトとアムルが声のした方向を見ると、何時から居たのだろうか…そこには不機嫌そうな顔をしたラザフォードが立っていた。
その姿にレディアルは肩をすくめて苦笑して見せると、軽く手を振って他の皆が居る所へ戻っていく。
それを見送りつつ溜息をつき肩を落とすと、ラザフォードは何とも言えず黙り込んだ2人に気が付き笑みを見せる。
「アイツの言う事は忘れてくれ。今は…目の前の事に集中すればいい。」
 その言葉に言われるがまま2人は頷いた。


 そこは全てを飲み込む様な漆黒の雲に包まれている。
闇が支配するその中に淡い光を放つ水晶が点在し、その紫の光に照らし出される周囲は一層不気味さを際立たせていた。
『…調和が乱れ…混沌は世界に渦巻く闇となった。これで全てが──我が腕に眠る。』
 周囲に女性の声が響き、4人が身構えると目の前の闇から湧き出るように白髪の女性…暗闇の雲が姿を現す。
「闇を氾濫させ、この世界を…そして、お前達の光の世界をも無に還そう。」
「そうはさせない!私達の世界を…2つの世界を絶対に無になどさせない!」
 暗闇の雲の言葉にロトが叫ぶと、暗闇の雲は憐れむ様な笑みを見せる。
「…性懲りもなく…再びわしに挑むつもりか?ここは闇の世界…光の力だけではわしは倒せん。」
 そこで、暗闇の雲を魔法陣が取り囲んだ。
「…光の戦士だけではない。」
「お前の闇の力はオレ達が抑える!」
 その言葉と共に闇の4戦士の足元にも魔法陣が浮かび上がり、それに繋がるように暗闇の雲を包む魔法陣へ光の帯が結ばれる。
「…馬鹿な…そんな事をすれば、お前達は消えてしまうぞ?」
 暗闇の雲の言葉にユリアスを除く3人は驚いて闇の4戦士を見た。
「消えるって…!?」
 ユリディナが問いかけると、セラは少しだけ振り返る。
「それだけ暗闇の雲の力は強力なの。」
「気にするな。闇のクリスタルに封印されると言う事態があったから形が残って居ただけ。
本来ならばとっくにクリスタルに宿る心の一部になってる筈なんだ。」
 そう言ってレディアルは笑って見せる。
「言っただろう?自分がやれる事はやって眠りたい。そして…これは私達だからこそ出来る事。」
 ラザフォードが静かに微笑み、それにルシフェルが頷く。
「世界を無には還させん。光の戦士…後を頼んだぞ。」
 ルシフェルが笑みを見せ、他の3人も笑って頷いて見せる。それと同時に周囲が光で包まれた。
「…小ざかしい…闇のクリスタルの力が無くともお前達を倒し、今度はその光の力で世界を無に還してやろう…!」
 光が治まりその場に膝を付いていた暗闇の雲がふわりと舞い上がった。

宙に浮いた暗闇の雲は胸の前で手を近づけ、そこに魔力が集中し始める。
それは一瞬、収縮すると次の瞬間、魔力の帯…波動砲となって放たれた。
それを合図に4人は散開するとロトとアムルが走り出す。2人は目配せし次に放たれた波動球をかわして二手に別れる。
ロトはそのまま直進し宙に浮いたままの暗闇の雲に盾を投げつけ、僅かに怯んだ所で真下に走り込むと地面に剣を付きたてた。
剣を伝わり放たれた魔力は地面から吹き上がり、暗闇の雲を襲う。
それを暗闇の雲は周囲を闇で包み防ぐと、急降下して左手に魔力を纏い振り払った。
振り払われた魔力は広範囲に広がり襲い掛かる。
『漆黒の光閃き 大気の震えとなり 切り裂け!』
 ユリアスの詠唱が響き、迫る魔力の壁が突如として真っ二つに切り裂かれる。
軍馬のいななきと共に召喚されたオーディンが姿を消し、切り裂かれた魔力の合間からロトが間合いを詰め同時に背後からアムルが切りかかるが、暗闇の雲はアムルの攻撃を魔力の盾で受け止め、直後にアムルの足元から闇の魔力が吹き上がった。
辛うじてそれをかわすが、さらに続けて暗闇の雲の周囲の地面から闇が柱のように付き上がり、
ユリディナの癒しの魔法が2人を包み込む中、暗闇の雲は暗雲に紛れるように姿を消した。
「いかに抗おうとも…やがて全ては無へと還る運命…。」
 4人が周囲に注意を払う中、暗闇の雲の声が響く。
姿が見えない中、不意に背後から感じた気配にユリアスは振り向きざまに魔法障壁を張った。
次の瞬間、暗雲の中から波動砲が放たれる。
ユリアスは障壁を維持するものの波動砲の威力に障壁が耐え切れずに砕け散り、弾き飛ばされた。
「誰にもわしを止める事はできん。」
 その声と共に床にも暗雲が広がり、そこから邪霊が現れる。
「何だ!?こいつ!」
 アムルが魔剣を振り払うと邪霊はすぐに掻き消えたが、またすぐに別な場所から姿を見せる。
その時、ユリアスの回復をしていたユリディナの後ろに姿を見せた邪霊が力を貯めるような仕草を見せ弾け飛ぶ。
「きゃあっ」
 突然の事にユリディナは思わず膝をつき、口元を拭いつつユリアスは舌打ちをした。
「あの邪霊…放置すると害のある瘴気を撒き散らすようだ。簡単に散らせるようだから…。」
 そこでユリアスは床に広がった暗雲がまるで波が引いて行くように一定方向に流れて行くのに気がつき顔を上げた。
「ユリディナ、障壁を。2人共、戻れ!あの波動砲が来る!!」
 ユリアスの呼び声にロトとアムルが後ろに下がると、ユリディナが魔法障壁を張り同時にユリアスも障壁を重ねるように展開させる。
少しの沈黙。直後、一気に暗雲の引いていった方向に魔力の圧縮が起き、暗闇の雲が姿を見せると同時に4人をシルクスの塔で襲ったものと同じ威力の波動砲が放たれた。
障壁を介しても伝わってくる振動にユリアスとユリディナは障壁の維持に意識を集中させる。
圧倒的な質量を持つ魔力の波に障壁が軋み始めた時、波動砲は過ぎ去っていく。
「…ほぅ…耐えて見せたか。だが、それも何時までもつ?」
 興味深そうな笑みを浮かべ暗闇の雲は闇の刃を放つ。
それを盾で弾きロトは3人の前に立つと剣を構えなおした。
「…決して負ける訳にはいかない…託された願いを裏切る事は出来ないんだ…!!」
 その言葉に3人も頷き立ち上がると再び身構えた。


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