闇の世界の入口でロトを診ていたユリアスは、ロトの呼吸が安定し容態が落ち着いてきた事に安堵する。
「2人は上手くやってくれた様だな…。」
僅かに微笑しロトの額に浮いた汗を拭う。
暫くしてアムルとユリディナが向かった北東方向から足音が聞こえてくる。
それに顔を上げると走ってくるアムルの姿が見えた。
「ユリアス!ロトは?」
息を切らせて問いかけるアムルの姿に苦笑しつつ、ユリアスは頷いて見せる。
「…安心しろ。それよりも、お前達は…。」
そこまで言って、ユリアスはユリディナと共にやって来たルシフェルの姿に言葉を切った。
アムルはロトの隣に膝をつくと、ザンデから渡された光竜の羽根をロトの手に握らせる。
それにユリアスが首を傾げた時、僅かな呻き声と共にロトが目を覚ました。
「皆…ごめん…。」
そう言ってロトは溜息を吐き、顔に手を当てようとした所で手に持っていた羽根に気がつくとそれに視線を落とす。
「これは…?」
「光竜の羽根…ザンデがくれたんだ。虚無の干渉を和らげてくれるって。」
ロトの問いにアムルは答えると、暗黒魔道士と対峙した際にあった事を話した。
話を聞きつつ身体を起したロトは、光竜の羽根を見つめて苦笑する。
「本当…あの人達には亡くなってからも心配かけてばかりだな。」
ロトの言葉に肩をすくめ、ユリアスは顔を上げるとルシフェルを見た。
「…ルシフェルが一緒に居ると言う事は…闇のクリスタルは1つ解放された、と言う事だな?」
「ああ。彼らのお陰でね。やはり…戻って来ていたのだな、ユリアス。」
「え?知り合い…なの?」
思いがけないルシフェルの言葉に、アムルとユリディナは顔を見合わせる。
するとユリアスは少し考えた後に口を開いた。
「私の母がダークエルフだと言う話はしていたと思うが…私の生まれは闇の世界なのだ。
その後、父の跡を継ぎ土の守護者となる為に光の世界で過ごすようになった。
ルシフェルとは闇の世界で過ごして居た時からの付き合いさ。
それよりも…ルシフェル、闇のクリスタルはどうなっている?他の3人は?」
ユリアスが問いかけると、ルシフェルは目を伏せた。
「闇のクリスタルは暗闇の雲が生まれた際にヤツの支配領域であるこの地に取り込まれ、同時に私達も虚無の力によって力を抑えられた。他の3人も、それぞれのクリスタルの元に封印されているだろう。」
「…なあ、他の3人って?」
ルシフェルの言葉にアムルが問いかける。
「闇のクリスタルの啓示を受けし者…闇の戦士の事だ。ルシフェルもそのうちの1人。」
その問いにユリアスが答えるとルシフェルは頷く。
「そう…1000年前の光の氾濫を食い止めたのは私達だ。光と闇…2つの世界はお互いに引き合っている。そして、2つの世界が1つに混じりあう時…そこには何も無い無の世界が生まれる。今、光がその力を失い闇が押し寄せている。闇の氾濫だ。
闇の氾濫はお前達の世界を闇に変えるだけではない。それは2つの世界を消し去るんだ。」
「…消滅…する…。」
ロトがぽつりと呟くと、ルシフェルは立ち上がり空を見上げる。
「すべては無に還る…確かに暗闇の雲の言うとおりかもしれん。だが、それを拒む力がある。お前達が希望と呼んでいるものだ。」
「…希望…クリスタルも言ってた…。この世界に再び希望を…って…。」
ユリディナの言葉にユリアスは微笑し頷く。
「世界はある所でまた無に還るのかもしれん。だが、まだ光の世界にも、闇の世界にもそれを拒む希望が残っている。それが残っている限り、まだ無に還るのは早いんだ。お前達と私達が力を合わせれば、まだ間に合う筈だ。」
ルシフェルが4人を見ると、4人はそれに答えるように頷いた。
その後、4人はルシフェルと共に火のクリスタルで竜騎士レディアルを、水のクリスタルで導師セラを守護する妖魔を倒し解放する事に成功する。
そして、最後の風のクリスタル…。
番犬ケルベロスの攻撃をロトが引きうけ、ユリディナとセラがそれを支える。
振り払われる尻尾や無差別に放たれる雷撃をかわしつつ、アムルとレディアルが攻撃を仕掛けユリアスの召喚とルシフェルの放つ魔法がケルベロスの体力を削っていく。
何度目かのケルベロスのブレスを凌いだ時、アムルが放った魔剣の闇の刃でケルベロスが体勢を崩し、そこを逃さず跳躍したレディアルが心臓を貫いた。
そこでケルベロスは咆哮を上げ、ゆっくりとその巨体を横たえると闇に溶ける様に消えて行った。
前衛の3人が大きく肩で息をしつつ座り込み、それをユリディナとセラが診て回る。
その時、闇のクリスタルを包み込んでいた魔法陣が光を放ち砕け散ると、闇のクリスタルと共に封印されていた黒髪の騎士が姿を現した。
解放され膝を付いた騎士をルシフェルは抱きとめる。
「…ラザフォード、聞こえるか?目を覚ませ。」
軽く頬を叩き声をかけると、黒髪の騎士…ラザフォードはゆっくりと目を開いた。
「ルシフェル…?私は…。」
そして身体を起こし顔に手を当てる。
「…ああ…そうか…。時間凍結が作動していたんだな…。」
溜息を吐き呟いたラザフォードの前にセラは座り込むと、彼の顔を両手で押さえ暫く真っ直ぐに目を見つめる。
するとセラはにっこりと笑い満足げに頷いた。
「良かった…まだ大丈夫だね!」
その姿に苦笑しつつラザフォードは周囲を見回し、ユリアスの姿に驚いた顔をした。
「ユリアス…?どうしてここに…。」
「…闇の氾濫を鎮めるために…。今度は私達の番だ。」
ユリアスが静かに答えると、ラザフォードは少し考えるように俯いた。
「闇の氾濫…そうか…光の…啓示を受けし者…光の戦士、か。…ならば急ごう。私に残された時間は長くは無い筈だ。」
そう言ってラザフォードが立ち上がると、アムルはサロニア史で読んだ事を思い出す。
「…残された時間って…本当に病に…?」
戸惑い気味に問いかけるアムルにラザフォードは笑って見せる。
「その通りだ。私の命はクリスタルの力に支えられている。全てはこの時の為に繋ぎ止めていた命だ。」
自分の言葉に何とも言えない雰囲気が漂い始まった事にラザフォードは苦笑する。
「気にしないでくれ。残りが見えているとは言え、その間に自分がやれる事はやって眠りたい。自分の一生に悔いは残したくないからな。暗闇の雲は全てを無に還す為に現れる。それを消す事が出来るのは、光と闇の希望…クリスタルの啓示を受けた私達だけだ。」
ラザフォードの言葉にロトは頷き、顔を上げる。
「行こう…暗闇の雲の下へ!」
その言葉を確認するように、8人は顔を互いに見合わせ頷きあった。
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