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暗黒魔道士


 静寂が周囲を包み込む。
互いに身構え間合いを計って居た中、最初に動いたのはザンデだった。
軽く腰を落とし地面を蹴ると、一気に間合いを詰め切りかかる。
アムルは衝撃に備え重心を落とすと左腕を魔剣の後ろに当て、ザンデの初撃を受け止めた。
続けざまに振り抜かれる大鎌を何とか受け流しアムルは間合いを取る。
同じく距離を取り様子を伺うザンデの姿と、手に残る攻撃を受け止めた感覚に違和感を感じアムルは首を傾げた。
「どうかした?大丈夫?」
 後ろから声をかけるユリディナにアムルは暗黒魔道士に気が付かれないように振り向かずに小声で答える。
「…何かヘンだ。あいつ…全力で来てない。」
 そこでザンデが魔力がを紡ぎ、炎が2人を襲う。それをユリディナが障壁を張って受け流す。
「これでも全力じゃないの!?」
 ユリディナが悲鳴に近い声を上げるとアムルは苦笑した。
「魔法を手加減したら上のヤツにバレるだろ。まあ…確かめるまでだ。」
 そう言ってアムルは自身に魔法障壁を張ると、まだ治まらない炎の中へと走り出す。
炎越しに見えるザンデが射程に入った瞬間、跳躍するとその勢いのままに魔剣を振り下ろした。
しかし、それを予想していた様にザンデは軽くアムルの攻撃をかわし、魔力を紡ぐとアムルの周囲を闇が取り囲んだ。
「…やば…っ」
 咄嗟にアムルは頭を守るように身体を丸めた時、その闇は爆発を起こし、その衝撃に膝をつきそうになるのを何とか堪える。
ほぼそれと同時にユリディナの癒しの魔法がアムルを包み込み、アムルは口に溜まった血を吐き出すと再びザンデの懐に踏み込んだ。
「…何を考えてる?」
 魔剣を魔杖で受け止めたザンデにアムルが問いかけるとザンデは小さく笑みを漏らし、無言のまま魔剣を弾き上げ魔力を紡ぐとアムルを氷の矢が襲う。
それを飛び退いてかわし、着地すると同時に地面を蹴った。
周囲に発生した火球が一気に爆発し、閃光で周囲が真っ白に染まる。
光が治まり視界が戻った時、そこには魔剣でザンデの身体を貫いたアムルの姿があった。
アムルが魔剣を引き抜くとザンデはゆっくりと地に倒れ、アムルは血の滴る魔剣を握り締めたまま遺跡の上に居る暗黒魔道士を睨みつけた。
「…これで残るのはテメェだけだ。」
 その言葉に暗黒魔道士は軽く腕を組む。
「ふむ…魔力の再現は申し分無かったが…器の強度が甘かったか。」
 そう言って立ち上がると、ふわりと浮かび上がり下へと降りてくる。
「ここで君達が死ねば、仲間の呪いは解ける事無く暗闇の雲を止める術は潰える。」
「…今更分かりきった事だ。」
 アムルは呟き魔剣の血を払い、身構えると暗黒魔道士に向かい走り出した。
同時に魔道士も魔力を紡ぎ始め、アムルをユリディナが唱えたプロテスの光が包み込む。
周囲の気温が一気に下がりアムルの目の前に無数の氷柱が付き上がる。
身を切るような冷気が襲い掛かるが、それでもアムルは速度を落とさず魔剣に闇を纏わせ振り抜いた。
それは行く手を遮る氷柱を破壊し、それと共に魔道士に切りかかると障壁がその攻撃を阻んだ。
「…テメェの目的は何なんだ。暗闇の雲が姿を見せるって事のその意味は知ってるんだろ!」
「君に教える義理も無いが……強いて言えば復讐だよ。愚かで強欲な人間共へのな。暗闇の雲が全てを無に還すと言うならば好都合。我が望みは成就される。」
 2度3度と魔法を唱えさせる隙を与えず切りつけると、鈍い音が響き障壁に亀裂が走る。
すると魔道士は口元に笑みを浮かべ、異様な雰囲気にアムルが少し後ろに退くと砕け散った障壁が漆黒の刃と姿を変えて放たれる。
咄嗟にアムルは防御体勢を取ると漆黒の刃が直撃する寸前に彼を魔法障壁が包み込み、刃はそれに阻まれ消えて行く。
アムルは安堵の溜息を漏らすと、再び攻撃に転じた。
暗黒魔道士の周囲に現れた無数の光弾がアムル目掛けて放たれ、爆発が起きる中をアムルは走りぬける。
光弾を全て潜り抜け踏み込んで振り抜いた魔剣は魔力を帯び、魔道士の障壁を砕きローブを切り裂く。
少し間合いを取ると魔道士は魔力を紡ぎ、周囲に雷の矢が浮かび上がると一気に放たれた。
魔剣でそれを打ち落としつつ矢の軌道にアムルは後ろへ下がると、ユリディナを狙って飛んでくる矢をまとめて打ち落とす。
「全ての生ある者へ死を…それが我が望みだ!」
 その言葉と共に2人を闇が包み込み、ユリディナは魔法障壁を展開させる。
急激な魔力の圧縮に障壁が軋み始めた時、ユリディナが張った障壁に重ねるように光が走り爆発が起こるも障壁は破られる事は無かった。

…戦闘の最中、暗黒魔道士は僅かな違和感を感じる。
幾度と無く放った魔法は2人を捕らえている筈なのに、それはことごとく障壁によって阻まれ致命傷を与える事が出来ない。
同行している女賢者の力量では完全に防ぎきる事は出来ない筈。それにも関わらず…。
次第に押され始めた事に焦りを感じ、アムルの攻撃をかわすとそのまま宙へと舞い上がる。
「…塵も残さず消してしまえば良い事…これで終わりにしてくれる…!」
 そう言って暗黒魔道士は手を掲げ、そこに巨大な魔力が集中し始めた。
「くそっ間に合うか…!?」
 アムルはそう呟くと魔剣が闇を纏い始め、それ魔道士に向かい振り抜いた。
暗黒魔道士の紡ぐ魔力が一回り大きくなった時、魔道士の視界の片隅にアムルが放った魔剣の力とは別の光が飛び込んでくる。
次の瞬間、魔力で造られた透明な刃が掲げた魔道士の右腕を切断し紡がれた魔力が弾け飛び、それに遅れて魔剣から放たれた闇の刃が魔道士を切り裂いた。
そこで魔道士は着地すると傷を押さえ大きく咳込む。
「……こんな所で……!!」
 そう言って身体を起した時、背後から鈍い衝撃が魔道士を襲った。
「…な…なにが…?!」
 突然の事にユリディナが戸惑い声を上げる中、アムルは黙ったままその様子を見つめる。
暗黒魔道士の身体を貫いたのは透明な大鎌の刃だった。彼は辛うじて振り返り、そこで目に映った銀髪に顔を歪める。
「魔…王…貴様…!!」
「…私がお前に利用されたままで終ると思ったか?感謝しているよ。こんな機会を得られてな。」
 そう言ってザンデは無造作に大鎌を切り上げた。
「こんな所で…まだ…私は…。」
 そこで、暗黒魔道士は地に倒れ闇に溶ける様に消えて行った。
「…どうして、あの人が?」
 ユリディナが状況を理解できずに問いかけると、アムルは肩をすくめて見せる。
「オレはアイツを殺してなかったってだけだよ。」
「あの状況でお前が理解してくれるかは賭けだったがな。」
 そう言ったザンデは左肩からは血が流れ落ちていた。静かに笑みをもらしザンデは具現化を解き大鎌は魔杖へ変化する。
「何時の間にか魂の一部を利用されて居た事は少々癪に障るが…僅かでも時間をくれた事には感謝せねばなるまい。」
 ザンデの言葉にアムルが首を傾げると、ザンデは自分の胸に手を当てる。するとその手に光を放つ羽根が現れた。
「光竜の羽根…かつて私が受け取った光竜の祝福だ。あの騎士に持って行ってやれ。」
「え…?」
 ザンデが手を差し出し、手元に転送された羽根にアムルが驚いて問い返すとザンデは呆れたように肩をすくめる。
「言った筈なのだがな…暗黒魔道士には気をつけろ、と。それなのにあの場で光竜を還して寄こすとは思ってもみなかったぞ。
この場にお前達2人しか居ないと言う事は、ヤツの罠にでも見事にかかったのだろう?
ヤツが消えたと言っても、暗闇の雲が放つ無の力もまだ干渉してくるだろう。それが虚無の干渉を和らげてくれる筈だ。」
 全てを見透かしたザンデの言葉にアムルは苦笑する。
「でも、何で助けてくれるんだ?」
 光竜の羽根を手にアムルが問いかけると、ザンデは目を伏せる。
「シルクスで…お前は私に聞いたな…私にとって命とは何だ?生きるとはどういう事なんだ?と。
お前に問われて気がつかされた。私は今まで漠然と力だけを追い求め生きる意味を考えた事もなかった。考えようとしなかった。…ドーガとウネの2人が死ぬまで…その生き方に何の疑問も持たなかったのだ。…師もその事を考えさせようとしたのだろうな。人間の一生分の時間を私に遺して…。」
 ザンデは溜息をつき、自嘲的な笑みを浮かべる。
「それに気がつく切っ掛けをくれた礼だ。とは言え…答えまでは出せそうに無いがな。」
そこでザンデの周囲に光が舞い始めた。
「どうやら、時間のようだ。」
 ザンデは目を閉じ空を見上げる。
「あ…あのっ…助けてくれて、ありがとう。」
 ユリディナが慌てて声をかけ、頭を下げるとザンデは苦笑した。
「私は礼を言われる資格は無い。」
「でも、それでも…暗黒魔道士の魔法を耐え切れたのは、貴方がシールドを重ねてくれたから…私1人では防ぎ切れなかったもの…。だから、ありがとう。」
 その言葉にザンデは2人に背を向ける。
「…お前達とは、もっと別な形で出会いたかったな。」
 そう言ってザンデは少し振り返ると静かに笑みを見せ、その姿は光に包まれる。
そして、光が粒となって消えるとそこには水晶で作られた人型が残されており、それも間を置かずに砕け散った。
水晶の砕け散る音が余韻を残し、やがて静寂が広がる。
アムルが黙って立ち尽くす中、ユリディナは地面に落ちる血に気が付きアムルのサーコートを捲り上げた。
「い、いきなりなんだよっ!?」
 突然のユリディナの行動にアムルが慌てるが、ユリディナはそこにあったチェーンメイルの裂け目に溜息をつく。
「なんだも何も無いでしょ!鎧外して!」
 言われるがままにアムルは鎧の止め具を外すと、そこから血に濡れた上着が見えた。
「はは…今まで気が張ってて気が付かなかったみたいだ。」
 気が抜けた様に座り込み苦笑するアムルの姿に呆れつつ、ユリディナは回復を続ける。
そこで、アムルはロトが倒れてから胸に感じていたチリチリと疼く痛みが消えた事に気がつき安堵した。痛みが消えたと言う事は、きっとロトの呪いも解けた筈…。
「…まさか、2人で暗黒魔道士を倒したと言うのか?」
 そこで遺跡の奥から声が響き、人影が姿を見せた。
「誰だ!?」
 アムルが警戒しつつ問いかけると姿を見せた人物は笑みを見せる。
「その身に宿す光の力…光の戦士…だな。私の名はルシフェル。闇戦士の1人だ。」
「闇戦士…闇のクリスタルの…?」
 名乗り礼をするルシフェルにユリディナが声を上げると、ルシフェルは頷いて見せる。
「その通り。詳しい話は君たちの仲間の元に戻ってからにしよう。事情があって2人だけなのだろう?」
 ルシフェルの言葉に2人は頷き、着た道を歩き始めた。


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