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魔王ザンデ


 空は白い雲に覆われている。
シルクスの塔・屋上の中央に立ちザンデは空を見上げていた。その後ろには鳥の様な真っ白の翼と竜特有の黒い翼…2対の翼を持つ黒竜が静かに座っている。
「…師が…私に人の命と言う時間を遺してまで…私に伝えたかった事とは何だったのだろうな。」
 ぽつりと呟いた主の言葉に黒竜は少し首を傾げる。
それを気にする様子も無く視線を落としザンデは首を振る。
「何故…光竜は光の戦士を助けた?何故、ドーガとウネの二人は彼らに道を残した?
自分の命を捨ててまで…命とはそんなにも軽いものなのか?」
『…私からは何とも言えん。その答えは自分で考えるしかないだろう?ただ…。』
 そこで黒竜は下から感じた気配に翼を広げる。
『どうやら光の戦士…すぐ下まで来たようだ。行って来よう。』
 そう言って黒竜が舞い上がるとザンデは黒竜の名を呼んだ。
黒竜が視線を向けるとザンデは少しだけ振り向く。
「お前は…死ぬなよ。」
『…それは命令か?』
 黒竜が問いかけるとザンデは答えず静かに笑みを見せ、その姿を暫し見つめ黒竜は黙ってその場から姿を消した。

 シルクスの塔7階…螺旋階段を登った所で巨大なホールが広がり少し奥に扉がある。
今まで塔の構造と変わった事に4人は顔を見合わせると、ロトは小さく頷き慎重に扉を開いた。
中は薄暗く静寂が周囲を包み込んでいる。ユリアスが魔法で明かりを灯すと部屋に鎮座した水晶で出来た竜の像が浮かび上がった。
その時、光が反射し奥に見えた鏡に気が付きロトの中に居た光竜が声を上げる。
『いけない…あの鏡は…!』
 次の瞬間、鏡が光を放ち4人の下に魔法陣が浮かび上がった。
「な…!?」
「体が動かない…!?」
 アムルが驚き声を上げた時、不意に部屋の中に声が響き渡る。
『…ふふ…注意不足だな。』
「この声は…ザンデか…!」
 ユリアスが舌打ちをしつつ、何とか状況を打開しようと思案する。
『その鏡に姿を映した者は5匹の竜の呪いによって自由を奪われる。そのまま大人しく魔竜の餌食となるが良い…!』
 ザンデの声が途切れると同時に部屋は淡い光に包まれ、水晶の竜達が実体化して行く。
そして、鏡に正面にあった2対の翼を持つ黒竜が翼を広げる姿が映り、黒竜が咆哮を上げるとそれに答えるように両脇の2匹の竜が4人に襲い掛かった。
魔竜の爪が4人を捕らえようとした時、それは突如展開された魔法障壁に阻まれる。
“…しっかりしな!”
 その声と共に4人の前に魔法障壁を展開させるウネが姿を見せた。
「ウネ!?」
 ユリディナが驚きの声を上げるとウネは笑みを見せ、その後ろにドーガも姿を現す。
「言っただろう?魂は滅びはしないと。…鏡の力はお前達の光に楔を打ち込みそれを封じ込めようとしてる。その魔竜の呪いを打ち砕くのは強い光の心。
私が光を探し出すまで耐えろ。けして、諦めるのではないぞ。」
 その言葉を残し、その場からドーガは姿を消した。
「…まあ、私が言うのも何だけどねぇ…詰めが甘いと言うか、本気じゃないと言うか…どちらかと言うと時間稼ぎかい?」
 ウネは障壁を維持しつつ目の前に居る黒竜に問いかける。
「あんた達が本気で手出ししないなら、私も手は出さないけどね?」
 そう言ってウネは黒竜に笑って見せた。
その頃、強き光の心を持つ者を探しドーガは4人の足跡を辿っていく。
サスーン、カナーン、オーエンの塔、水の町アムル、そしてサロニア。
各地で4人の危機を知らせ協力者を探し再びシルクスへと戻る。
シルクスではウネと魔竜達の睨みあいが続いていたが、不意に部屋の中が眩しい光に包まれた。
次の瞬間、4人を縛りつけて居た魔法陣が弾け飛び鏡が砕ける音が響き渡る。
「…やった!」
「呪いが…解けた!」
 身体に自由が戻った事に4人は安堵の溜息をもらした。
「…ロト!」
 名を呼ばれロトは驚いて振り返る。
「…サラ姫…!?」
 そこにはドーガが連れて来たサラ、シド、デッシュ、水の街のじいさん、アルスの姿があった。
サラは嬉しそうに微笑み頷く。
「さあ、私達が魔竜を食い止めている間に早く!」
 その言葉にロトは5人を見る。
「皆…ありがとう。…よし、行こう!」
 そしてロトが振り返ると、4人は頷き合い鏡の割れた先に現れた階段を駆け上がった。
鏡の先は赤い絨毯が敷かれ劇場のようなホールが広がる。
その奥にさらに続く階段の先へと進むと、そこは周囲を水が流れる屋上が広がっていた。
広いその屋上の広場の中心に、こちらに背を向けて立つ白銀の髪の男に4人は足を止め身構えた。
「…よく、ここまで辿り着いた。」
 周囲に良く響く声でザンデは呟く。
「しかし…もう闇はそこまで来ている。残念だったな、もはや手遅れだ。」
「そうはさせない!闇が世界を覆いつくすその前に…止める!」
 ロトが声を上げるとザンデは空を仰ぎ見、そして振り返る。
「…ならば止めて見せるが良い。この私を殺してからな!!」
 そう言ってザンデは笑みを浮かべ手に持った魔杖を振り払い、魔杖は大鎌へと姿を変える。
それに答えるようにロトは胸の前で剣を構え小さく息を吐くと、3人に目配せをし走り出した。

 自分に向かってくる4人の姿にザンデは微動だにせず笑みを浮かべたまま目を伏せる。
それに先頭を走るロトは周囲の僅かな空気の振動に気が付き障壁を展開させた。
次の瞬間、彼の周囲で爆発が起こり爆煙が巻き起こった。しかし、すぐにその爆煙は後方から放たれたエアロガの風で掻き消え、それと同時にロトはザンデに切りかかる。
ロトが振るう剣撃をザンデは大鎌で受け止め受け流す。そこへ側面から爆煙に紛れて移動したアムルが切りかかると、ザンデはロトを大鎌で牽制しつつ障壁でその攻撃を受け止めた。
同時にアムルに向かい魔力を放ち、その衝撃にアムルは間合いを広げる。
そこで僅かに障壁に走ったヒビにザンデは少し驚いた顔を見せたがすぐに笑みを浮かべ、少し腰を落とし踏み込むとロトに向かい大鎌を振り払う。
咄嗟にそれを受け止めたロトではあったが予想以上に重い一撃に一気に防戦へと持ち込まれてしまい、数撃受け止めた所で体勢が崩れ、そこを見逃さずザンデはロトを蹴り飛ばす。
さらに追撃しようとした所で2人の間に炎の渦が巻き起こり、ザンデは後退した。
「…流石は光の戦士…。ここまで来たのは伊達では無いと言う事か。」
 ザンデはそう言って大鎌を構えなおす。
「本気で行かせて貰おう。それが礼儀と言うものだ。」
 そう言った彼の顔から笑みが消え魔力が集中し始める。展開し始めた魔力にユリアスは声を上げた。
「皆!集まれ!!」
 その声に他の3人がユリアスの周囲に集まると、ユリアスは魔力を紡ぎ足元に魔法陣が描き出され4人は僅かに宙へを浮かぶ。
それと同時にザンデの唱えたクエイクが地面を走りぬけ続けて爆発が4人を襲った。
爆炎をロトが張った魔法障壁で和らげ、ユリディナの癒しの魔法が包み込む。
そんな中、続けて魔法を詠唱しようとするザンデの姿にアムルは走り出し地面を蹴り一気に飛びこみ切りかかると、ザンデのみぞおちに蹴りを入れ詠唱が止まった所へ魔剣を振り払うが、それは再び障壁に阻まれた。
「…しかし、まだ少しばかり未熟だな。」
 そう言ってザンデは大鎌を突き出すと魔力で形作られた刃が魔杖から切り離され回転して襲い掛かり、アムルは魔剣で直撃は防いだものの、その衝撃地面に叩き付けられる。
そこに慌ててロトが駆け寄ると、アムルにエリクサーを口に含ませ護るように身構えた。
「い…つつ…一撃がとんでもなく痛いな…。」
 咳き込み口の中に広がる血を吐き出すと、アムルは身体を起こし顔をしかめる。
「中々…隙を見せてくれないけど、やはり僅かに魔法詠唱時に隙が出来るんだ。
そこを確実に狙うしかない。」
「あいつ程の魔道士の詠唱狙うってのも、かなり至難の業だぞ…。」
 魔法詠唱を狙うと言う事は同時に高威力の魔法を受けるリスクも高くなる。当然、ザンデもそこを狙われるのは理解しているだろう。
かと言って、他に攻める隙を見つけだす方が困難だった。
ロトとアムルは頷き合った時、ザンデが魔力を紡ぎ始め、そこへユリアスが召喚した氷の女王シヴァが氷の弓を番え無数の矢を放つ。
ザンデは詠唱を中断し後ろに間合いを広げつつ魔法障壁でそれを防ごうとしたが、そこへ側面からロトが走りこみ魔法障壁に剣を突き立てる。
剣先に集約された力の衝撃で障壁が砕け散り、ザンデは咄嗟に炎で氷の矢を相殺しようとするが、それだけでは全てを相殺する事は出来ず炎の壁を越えた矢の1つが彼の右肩を貫いた。
その衝撃に大きく体が仰け反りそうになるのを踏み止まり、間合いをつめようとしたロトとアムルは魔杖から放たれた真空の刃に後退せざるをえなかった。
「…久しく忘れていたな…。」
 右肩を押さえ手に伝わる血の感触にザンデは笑みを漏らす。
「お前達には礼を言わねばなるまい。最後にこの血の騒ぐ感覚を思い出させてくれた事を。」
 同時に障壁に包まれた魔力の球が現れ、それにユリアスは3人を呼び戻すと周囲にユリディナが魔法障壁を張った。
すると、魔力の球を包み込んだ障壁が消えると魔力の球が弾け衝撃波が走り抜けた。
「あれは魔力を包み込んだ障壁が消えると破裂する時限爆弾のようなものだ。毎回集まるのは無理がある。だから、障壁が消える前に中の魔力の球を破裂させろ。」
「それって…どれだけ衝撃食らうんだ?」
 その言葉にアムルが不安げに問いかけると、ユリアスは苦笑する。
「心配するな。障壁に囲まれているうちは大した衝撃は無い。万が一、複数個の障壁が消えて弾けた場合、お前達はともかく私とユリディナは耐え切れん。補助はしてやるから安心して突っ込め。」
 そうやり取りをしている間にザンデは魔力を紡ぎ始めロトとアムルは再び走り出す。
同時にユリディナが放った光の防御壁が4人を包み込む。
ロトが接近する直前、彼の目の前に先程の障壁に包まれた魔力球が現れるが、ロトは迷い無くそれに突っ込み魔力球が弾けた瞬間、癒しの光が彼を回復させた。
ザンデは魔杖でロトの攻撃を受け止め笑みを浮かべる。
「その対処方法は想定外だな。しかし…面白い。」
 ロトを魔法で後退させ出来た隙に後ろから切りかかるアムルと切り結ぶ。その衝撃に堪えきれずにアムルが間合いを広げると、無作為に放たれた魔力が4人の周囲で爆発を起す。
爆風を堪えロトは再び詠唱を始めたザンデの懐に走りこみ盾で強打し、その背後からから呼び出されたイフリートが雄たけびを上げ炎の渦がザンデを襲った。
一瞬、炎の壁にロトがザンデの姿を見失った時だった。
「ロト!上だ!!」
 アムルの声に慌てて上を見上げたロトの目に大鎌を振り下ろすザンデの姿が映る。
咄嗟に盾でその攻撃を防いだものの、振り下ろされた大鎌の衝撃に体勢を崩しロトは膝を付き、それを逃さずザンデは地面を蹴り大鎌を振り払った時、ロトの前にアムルが滑り込み障壁を張ると同時にザンデの攻撃を受け止めた。
魔剣の反りに受け流され僅かにザンデの体勢が下に流れた瞬間、アムルはザンデの大鎌を弾きあげ魔剣に魔力を纏わせ振り抜く。
ザンデは障壁でそれを受け後ろに跳躍するが、着地すると膝を付き大きく咳き込み血を吐き出した。
「まだ…だ。この程度では私を殺す事は出来んぞ。」
 口元を拭い笑みを見せたザンデの姿に、アムルは拳を握り締める。
「…何なんだよ…殺せ殺せって…。ドーガもウネも、あんたを殺せとは言わなかった。
なのに何であんたは自分を殺せって言うんだよ!!あんたにとって命って何だ!?
生きるってどう言う意味なんだ!なんでそんな簡単に自分を殺せって言えるんだ!!」
 声を荒げるアムルの姿にザンデは一瞬困ったような表情を見せ、立ち上がると空を見上げた。
「今、この世界にやってこようとしている闇は私を依り代としている。だから…この世界を守りたければ、その依り代を殺せと言っているんだ。」
 そう言ってザンデは静かに笑みを見せた。


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