シルクスの塔の前に塔を囲むように広がる迷宮がある。
かつての王の居城への侵入者を防ぐ為に作られたその迷宮の入口に、土のクリスタルが安置された祭壇があった。
「ここを入って直ぐに最後の土のクリスタルがある。もはや敵の真っ只中だ。油断するのでは無いぞ。」
ユリアスの言葉に3人は頷く。
「…ユリアス…本当に、もう大丈夫なのか?」
ここ暫く体調の優れないユリアスを心配しロトが声をかけると、ユリアスは静かに笑って見せる。
「心配するな。…行くぞ。」
そして、目の前の扉が開いた。
「…よく、ここまで辿りついたものだ。」
クリスタルの間に入ったと同時に声が響き、奥から輝く曲刀を持った巨躯の男…ティターンが姿を見せた。
「だが…ここまでだ。ザンデ様の命に従い、お前達を闇に葬り去ってやろう!」
ティターンが剣を振り払い、ロトは胸の前で剣を構え精神を集中させるとティターンに向かい走り出した。
接敵する直前に障壁を張り、振り払われるティターンの剣を盾で受け流し、続けて振り下ろされた剣を受け止める。
そこへアムルが走りこむと、ティターンはすぐさま剣を返しその動きを牽制した。
ティターンの剣劇は振り払う度に後方に空間が歪み、そこに剣波が発生する。
後方から支援するユリディナやユリアスも常に周囲の変化に気を配らなければいけなかった。
それに加え合間にクエイクの振動が4人を襲い、長引けば確実にこちらが不利になっていく。
「ここまで来た実力は認めてやろう。だが、それでも力が足りん!」
その声と共に振り払った剣波がロトとアムルは弾き飛ばし、同時にティターンは魔力を集中し始める。
周囲の空気が一瞬ティターンに向かって動き、それにユリアスは全員に魔法障壁を展開させた。
次の瞬間、集中した魔力が爆発を起こし、熱風に遅れて炎を4人を襲う。
ユリディナが放つ癒しの光が皆を包み込み、ユリアスは魔法障壁の維持に意識を集中させる。
そこで、ふいに障壁越しに見えるティターンの姿が歪み、突如ユリアスの目前にその姿が迫っていた。
「…なっ…。」
ユリアスは驚いて顔を上げた。
「………兄様!!」
「ユリアス!!!」
自分を呼ぶ声が酷く遠くに聞こえる。
我が身を襲った衝撃にユリアスは視線を動かす。そこには、自分の身体に突き立てられた鈍い輝きを放つ曲刀があった。
目の前に立つ巨躯の男は静かに何事かを呟き自分を貫いた曲刀を引き抜く。
身体から力が抜けて行く感覚に自然と膝が折れ、胸を押さえた手には溢れ出る血の感触が伝わってくる。
ユリディナは魔法を唱えようとしたが、その瞬間にティターンが曲刀を振り払い巻き起こった剣波にユリディナは弾き飛ばされる。
「にいさま…っにいさま!!」
その声に顔を上げると、巨躯の男の後ろに大切な子供達の姿が霞んで見える。
そこで大きく咳き込みユリアスは血を吐き出す。
“…消える…のか?私は…。”
意識を繋ぎ止めようとしても、それも叶わず全身の感覚が失われて行き凍える様な寒さが襲ってくる。
“……いやだ……私は…まだ……。”
ユリアスの頬に涙が滑り落ち、ゆっくりとその場に倒れこむ。その時、彼が常に身につけて居た緑の宝玉が光を放ち、ユリアスの身体も光に包まれると光の粒と化し周囲に弾け舞う。
「うそ…だろ…ユリアス…。」
アムルが呆然と呟く。ユリアスが消える様を黙って見つめていたティターンは天井を仰ぎ見3人の方を振り返った。
「…無駄だ。最後の守護者亡き今、これ以上、お前達に進む道はない。」
「守護者…?どういう事だ!?」
ロトが立ち上がり叫ぶと、ティターンは少し驚いた顔をする。
「何も知らなかったのか?あのエルフの魔道士…あれは土のクリスタルを守護する者…土の守護者の別け身。奴は身体に戻る事を迷っていたようだが…。」
それにロトが怪訝そうな顔をするとティターンは嘲笑する。
「身体に戻れば別け身の記憶は消える。そう…お前達の事をな。だが、消えてしまえば同じ事。もぬけの殻の身体の始末など容易い事だ。」
その後ろで床に転がり光を放っていた緑の宝玉に周囲に舞っていた光の粒が吸い込まれて行き、一際明るく輝くとその場から消えて行った。
「…うるせぇよ…ベラベラ余計な事話やがって…。」
その声にロトはアムルの方を見る。すると、アムルはゆっくりと立ち上がり魔剣を握り締める。
「てめぇは絶対に許さねぇ…!!」
そこで魔剣の刀身が紫の輝きを帯び、アムルの身体から流れ込む力を闇へと変換させていく。
その闇の力の高まりにティターンは怯み後ずさる。
「ま…まさか…その魔剣は…!?」
その言葉を言い終わる前にアムルは魔剣を振り払う。魔剣に変換された闇の力は巨大な漆黒の刃となりティターンを真っ二つに切り裂き、
その傷口から広がった闇に飲まれティターンは霧散し消えて行った。
それを暫く黙って見つめた後、肩で大きく息をしつつアムルはうな垂れる。
「…ちくしょう…。」
ユリアスが消えた場所に呆然と座り込むユリディナの姿にロトも俯いた。
その時、奥から光が溢れ土のクリスタルが光を放ち始める。それに3人は顔を上げるとクリスタルの隣で魔力の檻の中で闇の力に拘束された人物に気がつき近づいた。
檻の中で目を閉じたその人は、先程、3人の目の前で消えたユリアスだった。
もぬけの殻の身体…そう言ったティターンの言葉を思い出し、ロトは手を伸ばす事を躊躇う。
そこで魔力の檻の中に見覚えのある緑の宝玉が宙に浮いている事に気がつく。それはロトが初めてユリアスを見た時から常に彼が身につけていた…先程消えたあの宝玉だった。
宝玉が光を放つと、その光はユリアスを包み込む。
『恐れないで…大丈夫。』
ロトに光竜が静かに語りかけ、それに意を決しロトは檻に手をかけると檻はいとも簡単に解除され闇の呪縛が次第に解けていく。
その時、後ろで見ていたアムルが突然、胸を押さえて蹲った。
「…今の魔剣の力は感情を制御できないと使用者の身体に大きな負担をかける。」
慌ててアムルの隣に膝をついた時、後ろから聞こえた聞きなれた声にロトは驚いて振り返る。
すると、闇の拘束から解き放たれたユリアスがアムルに近づき癒しの魔法を使う。
「魔剣が変換する闇の力は主の生命力を削るもの。感情に飲まれるな。…とは言っても、感情を制御出来んお前にはちと無理かな?アムル。」
「…ユリアス…?」
アムルは戸惑いながら顔を上げると、ユリアスはいつもの様に呆れた顔で笑って見せた。
「何をハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。私は私ではないか。」
「…兄様!!」
その言葉にユリディナはユリアスに飛びつき泣きじゃくる。それにユリアスは優しく微笑み頭を撫でた。
その時、土のクリスタルが強い光を放ち4人はクリスタルを見る。
『…光の戦士達よ…ザンデと言う者が再び光の力を使い暗闇の雲を呼び出そうとしている。どうか、シルクスの塔へ向かいザンデを止めて欲しい…。』
その言葉と共に4人は光に包まれる。
『…お前達に土の光を…。光の戦士よ。光と闇を分かつ者達よ…この世界に…再び平和を…。』
土のクリスタルから光を受け取った後、4人は1度体勢を整える為にインビンシブルへと戻る。
甲板で待つロトとアムルの所へユリアスの様子を見ていたユリディナがやってきた。
「…どうだった?ユリアス…。」
アムルが問いかけるとユリディナは笑って頷く。
「大丈夫。闇の呪縛と言っても傷つける事が目的じゃなくて、本当に魔力を封じ拘束する事が目的だったみたい。」
「どう…とは、どういう意味だ?」
そこへ船室で着替えたユリアスが姿を見せ、アムルは慌てて首を振る。
「いや、だって最近、体調が良くなかったから…。」
その言葉にユリアスは肩をすくめる。
「…それは別け身の限界が近かったからだ。別け身は自身から切り離した魔力で作った分身のようなもの。本来こんなにも長い期間、身体から離れて居られるものでは無いんだ。
クリスタルから受け取った力を借りて時間を引き延ばして居たが…魔力には限界があるからな。」
「…でも…どうして身体に戻ったのに、記憶が消えなかったんだろう?」
ティターンは別け身が本体に戻る際に記憶は消えると言っていた…それを不思議に思いロトが呟くとユリアスは目を伏せる。
「…本来はティターンの言う通りだ。恐らく…あの宝玉のおかげだ。」
「そう言えば…いつも身につけていたよな。緑の…不思議な形をした…。」
アムルの言葉にユリアスは頷き船首に向かい歩き足を止める。
「…土のクリスタルがザンデの手に落ちた時、守護者だった私も闇の呪縛に囚われた。
だが…世界の時間が止まった後、闇の合間を潜り抜け呪縛から別け身を解放してくれた者が居た。それが…光竜だ。」
それにロトが驚き顔を上げると、ユリアスは少し視線をロトに向けるが話を続ける。
「あの宝玉はその時に光竜がくれた物だ。私の…別け身の居場所を闇の目から隠してくれる。決して外さぬよう…とな。だが、それ以外に別け身の記憶を保持する力もあったようだ。
おかげで“私”は今、ここに居られる。」
「…なんでザンデは兄様を拘束しただけで…殺さなかったのかな…。」
ユリディナが首を傾げると、ユリアスは空を見上げる。
「土の力を最大限に利用するため…だろう。守護者はクリスタルと交感し魂を一部同化していたからな。完全に同化が切れる前に守護者を殺せばクリスタルから本来の力を引き出すことが出来ん。」
そして迷宮越しのシルクスの塔を見上げ、3人も塔を見上げる。
「もう少しでザンデに手が届く。…だが、ヤツもそんなに甘くは無いだろう。」
ユリアスが呟くと4人は顔を見合わせ互いに頷きあった。
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