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呪われた村


 ウルの町外れ…草原に1本だけ葉を茂らせる巨木の下に旅支度を整えた4人の姿があった。
「…日が暮れる前にはカズスまで行きたいな。」
 ユリアスが広げる地図を覗きつつロトが呟き、それに頷きユリアスは口を開く。
「うむ。だが以前よりも魔物が強くなってきている。すんなり進めるとは思わんがな…。」
 そんな2人のやり取りを見ていたアムルが大きく背伸びをする。
「ま、なるようになれって事だろ?こんな所で悩んでても仕方ねーよ。その前に日が暮れちまうぜ?」
 そう言って空を指差す。その後ろでは荷物の背負ったチョコボ・ナークに餌をやっていたユリディナが微笑んで見せる。
その言葉に2人は顔を見合わせ苦笑するとユリアスは地図を荷物の中にしまい、4人と1羽のチョコボは青空の元歩き出した。


 幸い魔物に遭遇する事無くカズスへと進んでいた4人だったが、次第に日が傾き、あっという間に夕闇が辺りを包み込んだ。チョコボの背に揺られ、ユリディナは空に浮かぶ三日月に目を向ける。
「…夜…なっちゃったね。」
「ん…、最近さらに昼が短くなって来てるような気がする。」
 その言葉につられ、ロトも空を見上げた。
辺りは静寂に包まれ僅かに虫の鳴き声が響く。と、先頭を歩いていたユリアスが足を止め、じっと先を見据える。その様子に首を傾げてアムルは問いかけた。
「ユリアス?どうしたんだ?」
 するとユリアスはチラっと振り向き、再び先を見る。
「カズスだ。だが…様子がおかしい。」
 そう言われ、3人は顔を見合わせる。先を見ると確かに闇に紛れて町並みが見えた。
だが、辺りはすでに夕闇に包まれて居ると言うにも関わらず、街頭など…町明かりが1つも見えないのだ。4人は辺り気をつけながらカズスへと入る。町の中は人の気配は無く風に揺れる木々の葉音だけが聞こえてくる。
「まるで…ゴーストタウンだな。」
 町の中央まで来た所でロトが呟く。と、何かに気が付いたナークがしきりにアムルの上着の襟を引っ張った。
「んー?どうした、ナーク…。」
 そこで振り返ったアムルの視界に、宿屋の窓に一瞬よぎった影が映った。
「…ふむ。何かは居るようだな。」
 言葉を失っているアムルを他所にユリアスは宿屋に向かい歩き始め、それの後を慌てて3人は追いかけた。
宿屋の中は小奇麗で、つい最近までは普通に人が生活していた様に見える。
年期の入った宿で床が時折キシキシと音を立てた。
「いかにも…と言わんばかりの雰囲気だな。」
 ユリアスは半ば楽しむ様な感じで笑いをもらす。それに呆れつつアムルは口を開いた。
「そういうの止めろよ〜…。」
「なんだ、幽霊は苦手か?精霊と似たようなものだろうが。」
 自分の後ろを恐る恐るついてくる3人の様子に、ユリアスは肩をすくめて見せ3人の背後を指差して見せる。それに3人は恐々と振り返り…
そこに立って居たのは、青白い半透明な姿をした老人だった。
…静寂が包んだカズスに誰とも知れない悲鳴が響きわたったのは言うまでもない…。

「ほっほっ、悪い悪い、脅かしてしまったのぉ。わしはシド。南のカナーンから来たんじゃ。」
 半透明な幽霊…老人はそう言って頭をかく。
「この先のネルブの谷が大岩で塞がれてしまい、カナーンに帰るに帰れなくなってしまっての。そこでこの町に一晩の宿を求めたのじゃがこのザマじゃ。どうだ、若いの。わしの飛空艇を貸してやるから、何とかしてくれんかのぅ?」
 その言葉に4人は互いに顔を見合わせロトが小さく頷いた。
「判りました、原因を探してみます。」
 ロトの答えにシドは嬉しそうに笑みを浮かべ、飛空艇の隠し場所を教えてくれた。
"西の砂漠に隠してある"と…。
宿にはシドの他にも姿を変えられてしまった人々が居り様々な話を聞く事ができた。
北にある洞窟に封じられていた魔人が蘇った事、
魔人を封じる『ミスリルの指輪』を作る事が出来る為にカズスが呪いをかけられた事、
現存する最後のミスリルの指輪はサスーンのサラ皇女に贈られた事…。
カズスで一夜を過ごした4人はシドに言われた通りカズスの西にある砂漠に向かった。

カズスの西にある砂漠…その中央に、風の塔と呼ばれる場所がある。
もともとこの地にあった石灰岩の山を風が長年かけて削り上げたその場所は、かつて色んな病に効くと言われる泉が湧き出ていた場所でもあった。
「…泉…枯れちゃったね。」
 今は見る影もなく枯れ果てた泉の畔に腰を下ろし、ユリディナが呟いた。
「大地震以降、大地の力も弱まって来ているからな。こう言った精霊の力の強い場所は真っ先に影響を受ける。」
 ユリアスが辺りを見回しため息をつく。
枯れた泉の縁を歩きつつロトは思い出した様に笑みを漏らす。
「アムルと…また会えたのも、ここだったな。」
「あー…。」
 ロトの言葉にアムルは思い出す様に上を見上げる。全ては5年前…1人、別な村に住んでいたアムルが3人と出会った時の事だった。
当時、大地震の混乱で家族が離れ離れにになると言う事は日常的にあった事である。
「…でも、どうしてアムルは何時もここに来てたの?ここ、アムルが住んでた所から…とても遠かったのに。」
 ユリディナは以前から気になっていた事を、アムルに問いかけた。
それにアムルは少し間を置く。
「ここに来れば…ロトが居るんじゃないか。そう思ってたんだ。」
 その言葉に怪訝そうな顔をするユリアスにアムルは苦笑して見せる。
「…ここは…。私たちの母さんが死んだ場所なんだ。」
 舞い上がる風にそっと目を閉じ、ロトが呟いた。暫しの沈黙。
風が収まりうつむくロトの頭を無造作に撫で、アムルは口を開く。
「ま、色々あってね。ここならロトも忘れない筈だ。生きてれば…必ず会える。そう思ってた。多少…時間はかかったけどな。信じてれりゃ願いは叶う。悪いことばかり続くことは無い。その後、きっといい事がある。…そう思えるようになっただけ気が楽になった。皆には感謝してる。」
 アムルはそう言って振り返り、笑みを浮かべるユリアスとユリディナの姿に言葉を詰まらせる。
「な…なに笑ってんだよ!この先に飛空艇あるんだろっ早く行こうぜ!」
「いや、何。ようやく本心が聞けたと思ってな。行こうか。サスーンに向かわねばな。」
 慌てるアムルの姿にユリアスは笑いをこらえつつ歩き出し、ユリアスの後を追い3人も奥へと向かった。泉のあった広場を抜けた先…少し岩陰になっている窪みに飛空艇はあった。
シドに教えて貰った場所にあった鍵を使い中へと入ると、ユリアスは計器の点検を始める。
「動く?」
 ユリディナが問いかけると、ユリアスは小さく息をつく。
「問題は無いようだな。動かして見るか。」
 そう言って、ユリアスは次々と計器のスイッチを入れ始める。
すると小さな振動が起き始め、舵の脇にあるモニターに周辺地図と読み込み中の文字が流れ始めた。やがて、文字の流れが止まり[OK]と表示される。それを確認し、ユリアスはゆっくりとレバーを下ろす。
…ガコン…
一つ大きな揺れが襲い、次の瞬間に船体はゆっくりと上昇を始めた。

 真上に上った太陽が照らし出す中、砂漠に砂埃が舞い上がる。
その中から、ゆっくりと飛空艇の船体が姿を現した。
「うわーっすげー!」
 飛空艇の窓から外を眺め、アムルが歓喜の声を上げる。
「ふむ…問題は無いな。高度は余り上がらない。山は越えられない、か。」
 ユリアスはモニターを見つめ呟き、一人はしゃいでいるアムルの様子にため息をつく。
「おい、アムル、動かし方を教えてやるからこっちに来い。」
「え!本当か!?」
 アムルは慌てて舵へと向かう。
暫くその場で静止していた船体がゆっくりと進路を変える。
その先には、森の中に佇む王城…サスーンが姿を見せ始めていた。


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