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古代遺跡へ


 淡い光に包まれた世界…そこに1人の女性が佇んでいた。
そこで響き渡るリュートの音に目を開く。
「…リュートの音…?」
「時間だ、ウネ。」
 その声にウネが振り返ると、そこには薄いケープを被った黒髪の男性が立って居た。
「…ノア様!」
 ウネが驚きの声を上げるとノアはいつもの調子で微笑んだ。
「光の戦士がお前の力を必要としている。ドーガにも会ったのだろう?」
 ノアに問いかけられウネは俯く。
「ノア様…あの子は本当に…。」
 ウネの言葉にノアは目を伏せた。
「…全ての原因は私がちゃんと話してやれなかった事だ。ザンデはその種族柄、力を求め命への執着が薄い。有限たる人の命を生きる内に命の尊さに気がついてくれればと思っていた。ザンデは聡い子だ。
冷静に向き合えば気がついてくれただろうが…その時間を与える間もなく虚無があの子を蝕んでしまった。…私の思慮の無さが招いた結果だ。」
 その言葉にウネは首を振った。
「私達にも責任はあります。だから…ザンデを止めなくては。」
 するとノアは少し寂しそうに笑みを見せる。
「…物分りの良すぎる弟子を持つと先生は寂しいですよ。…では、お行き。自分がやると決めた事を成し遂げるんだ。」
 そう言ったノアにウネは笑って頷いた。

 ランプの明かりだけが辺りを照らす洞窟で、リュートの弾き終えユリアスが顔を上げる。
「…起きないぞ?やっぱユリアスじゃダメなのかな?」
「ほぅ…ならば、お前が弾いてみろ。」
 アムルの言葉にユリアスが言い返し、それをロトがなだめていた時、眠っていた女性が目を覚ます。
「…まったく…なんなんだい?人が眠ってるって言うのに…静かにしておくれよ。」
 そう言って女性は身体を起すと大きく伸びし、その様子にユリディナが問いかける。
「あなたが…ウネ?」
「そう、私がウネだ。ずっと夢の世界に居たんだ。こっちは久しぶりだ。」
 そう言ってウネは身体を解す様に捻り立ち上がる。
「ああ、あんた達の事は夢の世界でドーガから聴いてるよ。光の戦士…だね。まさかザンデがこんな事をするなんて…。まずはドーガの言ってた巨大船を手に入れない事には先に進めないからね、北にある古代遺跡にある筈だ。それじゃあ、出かけようか。」
「え?」
 4人が口を挟む隙もなく話し出かけようとするウネにアムルが思わず言葉を漏らすと、ウネは目を細めアムルの顔を覗き込む。
「え?じゃないよ。何?まさか私と一緒じゃ嫌だとでも言うのかい?」
 それにアムルは慌てて首を振るとウネは満足そうに笑みを見せる。
「それなら良いけどね?…ああ、いけない。忘れないうちに渡しておこう。」
 そう言って、ウネは赤い光を放つ牙型の水晶を取り出した。
「あんた達の持ってる2本の牙、そして、この火の牙。これは皆ザンデが呼び出した4つの像を唯一破壊出来る物だ。」
「あの…その4つの像って言うのは…?」
 ロトが火の牙を受け取るの見つつ、ユリディナは問いかけた。
「古代の王が都を守る為に作った防衛機構…古代人の都シルクスに続く唯一の渓谷の両脇に1組づつ4対設置されている。その像の間を通る者は全て像の力により命を落とす。
だけど、その像を破壊出来るのが、その牙。だからなくしちゃダメだよ。
牙はもう1つある。それを手に入れるのに必要なのが巨大船インビンシブルだ。」
 ウネの説明に4人は頷き、北にある古代遺跡に向かい洞窟を後にした。
ウネの眠っていた洞窟の北に古代遺跡がある。世界最大級と言われ謎の多いその場所は、サロニアから派遣された学者達が日夜発掘を行っている。
高速艇ノーチラスもこの古代遺跡から発掘された物である。
その古代遺跡の発掘現場からさらに奥へ5人は進む。暫く進むと薄暗い洞窟を抜け水の流れる地下水脈が目の前に姿を表した。
流れる水を眺め背伸びするウネにユリディナは気になっていた事を問いかけた。
「…ウネ、一つ聴いても良い?ウネも…ドーガと同じ様にザンデを止められなかった事…後悔してる?」
 それにウネは苦笑し腰に手を当てた。
「…まあね。私達があの時ザンデを力尽くで止めていれば…こんな事にはならなかったのかもしれない。こうなる前に何かしてやれる事があったんじゃないか…そんな事ばかり考えちまう。
私達くらいの魔道師になると、ついつい命のありがたみを忘れてしまう。
だからこそ…ノア様は私達の中で一番魔力の高かったザンデに人としての命を…時間を遺したんだ。」
 そこで、ウネは先頭を歩くロトの方を見て溜息と漏らす。
…光竜がザンデの元を離れた以上、もはやザンデの魔族の血を抑えるものは何も無い。闇の力が増している今、あの子を“止める”事しか出来ないのか…。
1人考え黙り込んだウネをユリディナは心配そうに見つめた。
やがて、5人の目の前に巨大な扉が現れる。それをアムルが全体重をかけ押し開くと、目の前に巨大な船が姿を現した。
「すげぇ…!」
 その大きさにアムルは目を輝かせ声を上げ、ロトも圧倒されそれを見上げる。
「そう、これがインビンシブルだ。ほらほら、さっさと乗って出発するよ!」
 ウネに急かされ、4人はインビンシブルに乗り込む。そしてエンジンを始動させると僅かな揺れと共にプロペラが回転し始めた。
古代遺跡の入口から遥か南の海に海中からゆっくりと巨大な飛空艇が姿を現す。
「ほー…すげー…。」
 舵を握りつつアムルがウネに教わりながら機械周りを確認し始める。
他の3人は一通り船の中を見て周り船橋へ戻ってくると、アムルも説明を聞き終わった所だった。
「戻って来たね。大体船の中は分かったかい?土の牙がある暗黒の洞窟は、水の街の北にある山の中だ。」
 そこまで言った時、ウネはふと外を見た。
「…ドーガが呼んでる…。」
「え?行ってしまうの?」
 ユリディナが声をかけると、ウネは頷く。
「あとは、あんた達だけでやりとけなくてはならない…。まずは暗黒の洞窟で土の牙を手に入れな。
そしたら、ドーガの館に戻ってらっしゃい。あんた達に渡す物を用意して待ってるよ。また、ドーガの館で会おう。」
 そう言ってウネは笑うと、その場から姿を消した。
「行っちゃった…。」
「また会えるさ。まずは暗黒の洞窟に行こう。」
 ユリディナが俯くとロトは慰めるように頭を撫でる。
と、そこで地図を見ていたアムルが振り返った。
「…あのさ…その前に寄りたい所があるんだけど…行ってもいいか?」
「行きたい所?」
 ユリアスが問い返すと、アムルは地図の山中にある場所を指差した。
「ああ…魔剣士の里…ファルガバードに。」

 サロニアの南西にある山中に魔剣を極めようとする者達の隠れ里がある。
ファルガバードと呼ばれるその地は、かつてサロニアを追放された魔剣士レオンハルトが居を移し後に同じくサロニアを追放された魔剣士達が集まって生まれた村だと伝わる。
その地へやってきたアムルは人影の少ないその村を見渡した。
「…ほう…珍しい。ここ出身ではない魔剣士とは…。」
 その声に4人が声のした方を見ると、一人の老人が立って居た。
「見ただけで…分かるものなんですか?」
 ロトが問いかけると、老人は笑って見せる。
「それはそうだ。見ての通り、この里は今や後継者が少ない。今を生きる魔剣士の殆どはこの里で修行をした者ばかりだ。
…中々、魔剣を手なずけているようだが…まだ知らぬ事があるから、この地を訪れたのだろう?ゆっくりして行くと良い。」
 老人はそう言って村の奥へと歩いて行った。それを見送りつつユリアスは帽子を被り直す。
「さて…私は少し宿で休んでおるよ。お前達はどうする?」
 それにロトは少し顔をしかめる。
「…私も…少し休もうかな…。」
「もしかして…ロト、胸の傷跡…痛むのか?」
 ロトの微妙な反応にアムルが問いかけると、ロトは慌てて首を振った。
「いや、そう言う訳じゃないんだけど…。」
 その様子にユリアスは呆れた顔をする。
「またそうやって隠そうとする。…少し負の力に敏感になり過ぎているんだろう。」
「休んでろよ。この村も魔剣士の里だけあって、周りより闇の力が強いのかもしれない。ユリディナ、見ててやってくれ。」
 アムルに声をかけられ、ユリディナは黙って頷き、3人は宿に向かい歩いて行った。
3人を見送った後、アムルは1人、村を歩き始める。
修行を続ける住人や指導する者…そんな人々の話を聞き、魔剣士の在り方を考えながら里を流れる川沿いを歩く。
「何か…他とは違う風だ。なあ、お前は懐かしいのか?」
 里に流れる風にアムルは他の街とは違う独特の雰囲気に、背に背負う魔剣に声をかける。
『…まあ、多少は…。この地は土地柄、闇の力が濃い。その闇の力が懐かしい…と言った方が正しいかもしれぬ。』
「…良く判らんけど、懐かしいって事なのか…。」
 相変わらず難しい言い回しをする魔剣に苦笑しつつ歩いて居た時、アムルの前に1人の若い男が立って居た。背の高い…少し耳の尖った金髪の男は、アムルを見ると少し驚いた顔をする。
「…久方ぶりだな。外から来る魔剣士も。」
 その言葉に、アムルは苦笑し頭を掻く。
「いや、別に悪い訳じゃない。ただ…珍しいだけ。」
 そう言って、男はアムルをじっと見る。
「そう…君のように、心に光を宿しながら魔剣を手なずけるヒトが珍しいんだ。これから、今まで以上に辛い戦いになるだろうが…決して心の闇に飲まれるな。
仲間を信じ、自分を導くその心の光を信じろ。そうすれば、魔剣はそれに答えてくれる。」
 アムルはその言葉に呆然として立ち尽くしていた。と、ふと我に返り周囲を見回す。
しかし、そこには先程の男の姿はなくアムルは首を傾げると宿に向かい歩き始めた。
宿へ戻った所で、入口のカウンターにユリディナが立って居た。
「あ、おかえり。もう良いの?」
「…あれ…ロトとユリアスは…?」
 アムルが問いかけると、ユリディナはチェックインの手続きを済ませ笑って見せた。
「2人共、余程疲れが溜まってたみたい。部屋に入ったらすぐ寝ちゃって…全然起きる気配が無いんだもの。」
 2人は並んで廊下を歩きつつユリディナは苦笑しつつ状況を話す。
「そうか、そうだよなぁ…。時の神殿出てから、いくら休んでも船の中じゃ疲れも残るか…。」
 そう言いつつ部屋へと入り、アムルは奥の寝室を覗き見る。すると、ロトはベッドで、ユリアスは窓際のソファで泥のように眠っていた。
「…まともに休んでなかったし…丁度良かったかもな。」
 そう言いながら、アムルも鎧を脱ぎ魔剣を壁に立てかけた所でユリディナがコーヒーを淹れて出す。
「アムルもお疲れ様。飛空艇の操縦とか、魔剣の使い方とかで色々大変でしょ?今日はゆっくり休んでね。」
「ユリディナもな。」
 アムルは笑ってコーヒーを受け取ると口に運ぶ。そこでユリアスが目を覚まし起きて来た。
「兄様、もっと寝てたら良いのに。」
「少しのつもりだったのだが…もうこんな時間なのか…。」
 ユリアスが気まずそうな顔をして溜息をつくと、アムルは笑いながらコーヒーをすする。
「ま、良いんじゃねぇの?誰かさんは朝まで起きないぜ。あれ。」
 その言葉にユリアスはベッドで眠るロトの姿をみると、苦笑し肩をすくめて見せた。


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