ダルグ大陸…偉大なる魔道士が住むと言うその大陸の入口である十字岬は、谷から噴出す強風で何者も寄せ付けず風の結界とも呼ばれていた。
そこを高速艇ノーチラスの推進力で突き抜け、谷に沿って奥へと向かい進んでいく。
「…この先、何があるんだ?」
アムルが問いかけるとユリアスが外に目を向けつつ口を開く。
「…この地には大魔道師と呼ばれる魔道師が居た。この先の館に、今でも彼の弟子の1人が住んでいる。光を封じた大地震…それの発端を知っている筈だ。」
「発端…?」
ユリディナが首を傾げるとユリアスは静かに頷く。
「…そうだ。あの大地震は人為的に引き起こされたものだ。」
その言葉に3人は顔を見合わせた。
「館が見えて来たぞ!」
アムルが指差した先…そこには森の中に佇む館が見え始めていた。
ノーチラスを手前の広場に下ろし、4人は館へとやって来る。
扉を開けるが中は薄暗く、奥を伺う事が出来ない。
「…誰も居ないんじゃないのか?」
アムルがそう言って一歩中に足を踏み入れた時だった。
「…誰だ?ここを魔道師ドーガの館と知っての事か?」
突如、暗闇の中声が響き渡る。
「え…?…うわ!!」
そこでアムルは何者かに取り囲まれ押さえ込まれる。
「な…なんだよ!こいつら!!」
白い物体に埋め尽くされたアムルの様子にユリアスは顔に手を当て溜息をつき、ロトは慌てて周囲を見回す。
「突然の来訪、申し訳ありません。大地震の件で…話をお聞きしたくて伺いました。」
「…もしや…お前達は…。」
その声と共に館内に明かりが灯り、アムルを押さえ込んでいたのは白い毛玉にコウモリの羽を持つ生き物だった事が判る。
そして、奥から朱色のローブを纏った黒髪の魔道師が姿を現す。
「そなた達…光の戦士だな。そうか…クリスタルはヒトにその力を託したのだな。ならば話しておかねばならぬ事がある。」
魔道師ドーガはそう言って4人を奥の部屋へと促した。
館には先程アムルを押さえ込んだ白い毛玉…モーグリと言う幻獣と言うらしい…が多数、ドーガと共に暮らしていた。
ドーガの自室へ招かれた4人に、モーグリはお茶を運び出て行く。
「…この世に暗闇をもたらした者…その者の名はザンデだ。」
「…クリスタルの所とかに居た奴等が言ってたな。ザンデ…マスターって…。」
ザンデの名を聞きアムルが呟くと、ドーガは頷く。
「彼らは古の魔獣。盟約を結んだ者の命に服従する。かつて我等が師ノアが使役していた者達だ。」
「それを…ザンデが?」
ユリアスが問いかけると、ドーガは窓辺に近寄り外を見つめる。
「彼らは自分達の意思でザンデを次期盟主に選んだ。…ザンデにはその資格があったからな。
師は死ぬ間際、私にその魔力を、もう1人の弟子には夢の世界を。そして、ザンデには人間としての命を遺された。だが、ザンデはそれが不服でこの地を去った。そして古代の民が作り出した装置を利用し、あの大地震を引き起こしたのだ。」
「…何の為に?」
再びユリアスが問いかけるとドーガは目を伏せる。
「失った魔力を補うため闇の力を手に入れる為に、だ。あいつは命よりも力を求めていたからな。
…ザンデは光の力を封じた。そして、闇を呼び寄せ自らの力にしようとしている。何としても、あいつを止めねばならん。」
そこでドーガは胸を押さえ小さく咳き込んだ。それに慌ててロトが近寄り背を擦ると、ドーガは苦笑して見せる。
「…見ての通り…病を患っていてな…。今の私の力ではザンデを止める事はできん。頼む、この先にある魔法陣の洞窟へ私を連れて行って欲しい。」
「魔法陣の洞窟?」
深呼吸をするとドーガは振り返る。
「そうだ。魔法陣は異次元に通している。そこにエウレカの鍵がある。」
「エウレカ?」
アムルが問いかけると、ドーガは頷く。
「エウレカは、その昔…ヒトには力が大きすぎて扱えなかった武器が封印された異空の禁断の地。
ザンデを止めるには、お前達の力に合わせ禁断の力が必要になろう。」
「…分かりました。でも…無理はなさらないで下さい。」
少し考えロトが答えるとドーガはロトを見て、ふと彼がしている赤いピアスに目を止めた。
それは水の洞窟でアムルがロトを見つけた際に、ロトの手から転がり落ちたあのピアスだった。
「…そのピアスは…。」
その言葉にロトは言葉に詰まるが、ドーガは直ぐに微笑んだ。
「…行こうか。これ以上、ザンデに罪を重ねさせる訳にはいかん。」
ドーガの言葉に4人は頷き立ち上がった。
ドーガの部屋から通じる洞窟を小人になり、かなり奥へ進んだ先に青白い光を放つ魔法陣があった。
その魔法陣の中央に立ち、ドーガはノーチラスを海に潜れるように魔法をかける。
「サロニアの南…二本角の岬の先に海底に眠る時の神殿へ向かえ。そこに師のリュートがある筈。
夢の世界にも響くその音色でウネを夢の世界から呼び戻すといい。」
「ウネ?」
ユリディナが問いかけるとドーガは頷く。
「私とザンデと共に学んだ師のもう1人の弟子…。ウネは夢の世界…精神世界を管理するため眠りについている。お前達はウネを起こし、古代遺跡に眠る巨大船インビンシブルを手に入れろ。
…この洞窟はもうじき消える。ウネによろしくな。また会おう、光の戦士よ。」
ドーガが笑みを見せると、4人は光に包まれその場から姿を消す。
そこでドーガは小さく溜息をついた。
「光竜よ…お前が…ザンデの元を離れたのか…。本当に…以前のあいつでは無いのだな…。」
そして、魔法陣が光を放ちドーガもまた洞窟から姿を消した。
ドーガの魔法で洞窟から転移させられた4人は、光が治まるとドーガの自室に立って居た。
「…ドーガ様は行ってしまわれたクポ?」
その声に扉の方を見ると1匹のモーグリが部屋を覗いていた。それにロトが頷くと、モーグリは4人の前に飛んでくると俯く。
「ドーガ様…ずっと悩んでいたクポ。あの時…無理にでもザンデ様を止めておけば…と。」
「…あの時?」
ユリディナが問いかけると、モーグリはクルクルと回る。
「ノア様がお亡くなりになった時クポ。ザンデ様もお優しい方だったクポ。でも、ノア様が自分には人間の命と言う、つまらないものしかくれなかったと言って居なくなったクポ…。」
その後、ノーチラスに戻った4人はドーガに言われたように、海底にあると言う時の神殿へ向かい飛び立った。
その船の中、ロトは船室で窓から外を見つめていた。
「…優しい方…か。モーグリに言われる位だから…本当に優しい人だったんだな…。」
ぽつりと呟くと、その傍らに光が弾け幼竜が姿を現すとロトの膝に乗る。
『…見た感じは近寄りづらい…冷たい雰囲気を持った方だ。でも…何かしら困っている時は黙って助けてくれる、そんな人だ。』
「ちょっとした…意志の食い違いが全ての始まりな感じなんだな…。」
ロトは溜息をつき、その後は黙って外を流れる景色を眺めていた。
時の神殿へ向かう前にサロニアで物資の補給をしようと進路をサロニアへ向けていた時だった。
モニターに映し出される地図を見ていたアムルはサロニアの北西に映る小さな印を見つける。
「…なあ、このサロニアの北西にあるのって村?」
それに地図を覗き込んだユリアスは小さく声を上げた。
「そこは恐らく召喚士の村だな。」
アムルとユリディナが顔を見合わせるとユリアスは頷いて見せる。
「幻獣と呼ばれる幻界に住む者を呼び出す力を持つ者達が住まう村だ。」
「へぇ…ちょっと寄ってみようか?」
アムルが問いかけるとユリアスは少し考え頷き、それにアムルは進路を召喚士の村…レプリトへと向けた。
村は見た感じは普通の森の中にある静かな村だった。
「なーんか普通の村だな。」
村を見回しアムルが口を開くと、ユリアスは1人魔法屋へと歩いて行く。
「アムル、道具屋行こ?一番使うのアムルだし荷物持ち付き合って。ね?」
「あ…ちょ…。」
アムルは返事を言う前にユリディナに手を引かれ道具屋へ連れて行かれる。その様子を笑って見送り、ロトは1人村の散策を始めた。
一通り見て回り、ロトは村外れの森の中を歩く。と、そこで森の中に1人佇む人の姿に足を止めた。
木漏れ日の中、空を見上げていたその人物はロトの気配に気がつき振り返る。
「おや…珍しい。旅の方ですか。」
薄いケープを頭から被った黒髪の男性は微笑み声をかけてきた。それに、ロトが慌てて頷くと男性は近づいて来る。
「静かな良い所でしょう?精霊の声も良く聞こえる。」
そして、ロトの隣まで来ると足を止めた。
「一つ…教えてさしあげましょう。光が氾濫した時と同じ様に…今、闇の力が氾濫しようとしている。
1人の男が闇を呼び寄せている…。しかし、その者は知らない。
それが…仕組まれた事であること、本来の目的を利用されていると言う事を。
一時は闇が世界を包み込んでも、結局最後はバランスを崩した光と闇の2つの世界はどちらも無くなってしまう事を…。」
そう告げると、男性はすれ違い村へと去って言った。
「…ロト?どうした?」
不意に声をかけられ我に返るとロトは振り返ると、そこにはユリアスが立って居た。
「こんな所で何を1人で立ち尽くしているんだ?」
「え?今、黒髪の人と会わなかったのか?」
その言葉にユリアスは怪訝そうな顔をする。
「何を言っている?私は村の方から来たが誰とも会っていないぞ?」
「…あれ…?」
首を傾げるロトにユリアスは肩をすくめると2人は村へ戻り歩き始める。
その後姿を先程の黒髪の男性が最初と同じ様に木漏れ日の中に姿を現し見送り佇んでいた。
───時の神殿…。
水の流れる荘厳な神殿内部の最深部の部屋へ辿りついた時、不意に中からリュートの音色が響き渡った。それに4人は顔を見合わせ慎重に扉を開くと、奥の祭壇で淡い光の中リュートを爪弾く人の姿が浮かび上がる。
「…あの人は…。」
ロトが驚きの声を上げると、リュートを爪弾いていた薄いケープを頭から被った黒髪の男性は4人を見て静かに微笑んだ。
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