ひとまず少年を連れ4人は街で宿を取る。
少年の名はアルスと言い現サロニア王ゴーンの息子だと名乗った。
そして、酒場に居たのは王を説得するため共に城に行ってくれる同行者を探しての事だったと言う。
「…なるほど、ギガメスとか言う魔道士が大臣になって以来、王の様子がおかしい…と。」
アルスの話にユリアスは呟く。
「はい…。まるで心の無い人形のようで…時々、私の事も知らないというような目で見る時もありました…。」
「そして先日、王子を追放…か。」
ロトも考え込み、アルスは再び口を開く。
「父上は突然人が変わったように酷い事をするようになって…。味方同士で戦いを始めさせたのです。私は止めたのですが聞いては貰えませんでした。それで城の外に追放されたのです。父上は2度と戻ってくるな、と…。」
「…そのギガメスとか言うヤツ…怪しいな。」
アムルが呟くと黙って話を聞いていたユリディナが頷く。
「直接…会ってみるしかあるまいが…。」
少し思案しユリアスはそこまで言って言葉を切りアルスを見た。それにロトは首を傾げる。
「国王の行動だ。もしかしたら…王子を守るため追放したのかもしれん。」
「…え?」
それにアルスは驚いて顔を上げる。
「操られていたとしても…初期であれば、まだ意識が残っている場合がある。城から遠ざけておけば少なからず王子に及ぶ危険も減る。完全に思考を支配するには術者は暫くの間、王の元を離れる事は出来んからな。」
思いもしなかった理由に王子は唖然とし、その様子にユリアスは再度問いかけた。
「どうする?城に戻れば貴方自身に危険が及ぶ可能性がある。」
その問いにアルスは俯く。そして意を決したように顔を上げた。
「…それでも…私は父上の心を知りたい。」
アルスの言葉にユリアスは立ち上がる。
「…城に向かう。早い方がまだ…余地がある筈だ。」
それに3人は頷いた。
サロニア王城の前の広場は異様な雰囲気に包まれていた。
サロニア王国軍が2つに別れ戦いを繰り広げていたのだ。
しかし、国王の命令とは言え味方同士で本気で戦うのは躊躇いも見え、戦っていると見せかけつつも時間を稼いでいるようにも見えた。
5人はそんな広場の端を駆け抜け城門前へとやってくる。すると門番の兵士が敬礼をする。
「これはアルス王子…。」
「門を開けよ。」
凛としそう告げたアルスの姿に兵士は躊躇う。
「しかし、貴方様は追放された身。中に入れる訳には…。」
そこで、奥から別な兵士が駆けて来る。
「何…?陛下が通せと言っているのか?」
その言葉にユリアスは眉をひそめる。
「失礼致しました。どうぞお通り下さい。」
兵士はそう言って城門を開け5人は城の中へと通される。そして、中で待っていたメイドに案内され客間に案内された。
「今日はここでお休みください。明日、陛下がお会いになるそうです。」
そう言ってメイドは出て行った。
「…気をつけた方が良い。」
周囲の気配を警戒しつつユリアスが呟き、4人は顔を見合わせる。
「どういう事だ?」
「…手遅れかもしれん、と言う事だ。」
その夜、アルスは城の屋上に居た。そこへ、アルスを探しアムルがやってくる。
「こんな所に居たのか。何があるか分からないから1人で出歩くな。」
少し安心した顔をしたアムルにアルスは俯く。
「どうした?」
「…父上はどうされたのでしょうか…。私の事を…愛してはいないのでしょうか。」
その姿にアムルは昔の自分を見ているようで何とも言えない気持ちになり、アルスの頭を無造作に撫でると膝をついた。
「王子。愛しているさ。子供を愛さない親がどこに居るんだ。」
「そうでしょうか…。」
不安そうに自分を見るアルスに、アムルは頷いて見せる。
「明日、国王に会えば全てがはっきりするさ。」
アムルの言葉にアルスも頷き戻ろうとした時だ。
2人が出てきた扉とは反対側にあった扉から人影が姿を見せる。月明かりに照らされたその姿にアルスは驚き走り出す。
「父上!」
「…まて!王子!!」
その時、国王から感じた気配にアムルは慌ててアルスを呼び止める。次の瞬間、国王はアルスの胸倉を掴み剣を振り上げた。
「父上…!」
「う…うぅ…。」
剣を振り上げた所で国王は動きを止め苦しそうに呻く。
「父上…?」
アルスが恐る恐る呼びかけた時、国王はアルスを突き飛ばし頭を押さえ絶叫し持っていた剣を返すとそのまま自分の胸を貫いた。
突然の事にアムルも動くことが出来ず呆然と立ち尽くす。
「…これで…もう…操れまい…?」
国王はそう呟き剣を引き抜き、その場に倒れ伏す。それにアルスは慌てて駆け寄った。
「父上!!」
アルスが声をかけると、国王は目を開きアルスの頬を撫でる。
「…アルス…私は…ギガメスに長い間操られていた…。お前はもう…私の事を許してはくれぬと思っていた。…だが…こうして戻って来てくれた…。
お前が…私を信じてくれたから…そのおかげで、自由を取り戻す事が出来た…。」
国王の言葉にアルスの目から大粒の涙が溢れ出す。
「私が…こんな事を言える立場では無い…が…アルス、私の後を継ぎ…サロニアに再び…平和を…。」
「いやです!父上!!私を…私を置いて逝かないで下さい…!!」
国王は優しく微笑み、アルスの涙を拭う。
「…愛している…アルス…。」
そして、その言葉を最後に国王の手は力なく滑り落ち、アルスはその身体にすがり泣き伏せた。
そこへ騒ぎを聞きつけ駆けつけたロトは拳を握り締め立ち尽くすアムルの肩に手を置いた。
「…何も…出来なかった…。」
ぽつりと呟くアムルにロトも無言で俯く。そこで、ユリアスは階段から登ってくる足音に帽子を被り直す。
「…貴様がギガメスか。」
階段から姿を見せた魔道士風の男は呆れたように笑みを見せる。
「…やはりサロニア王には無理だったか。軍事国家サロニアの混乱は人の心に不安と恐怖を生み、それは更なる闇を生み出す。人々が希望を失えば再び闇を呼び出す事も容易となろう。世継ぎが死んだとなれば尚の事…。」
「それがお前の目的か…!」
ロトが剣を抜き数歩前に立ち、アムルも何時でも動き出せるように魔剣に手をかける。
「ふふ…光の戦士など笑止!マスターの手を煩わせる事も無い…クリスタルの希望…ならば、その光、この場で葬ってくれる!!」
ギガメスが両手を掲げると彼の周囲を放電現象が起こり突如落雷が起こりその姿が見えなくなる。
その眩しさに思わず目を閉じ光が収まった時、そこには人間の胴体に大鷲の翼と頭部を持つ伝説の怪鳥ガルーダの姿があった。
ユリディナが唱えたプロテスの光が皆を包み込み、それを合図にロトが走り出しガルーダ目掛けて盾を投げつける。
一瞬、ガルーダが怯んだ隙に盾を掴みそのまま懐に潜り込むと、その勢いのまま盾でガルーダを強打し剣で切り付けた。
振り下ろされたガルーダの鉤爪を盾で受け、そこへ背後に回ったアムルが剣を振り払った。
対するガルーダは宙を舞い、雷を呼び寄せ、雷は4人を襲う。
その直後、ロトが全員に障壁を張り、ユリディナが解放する癒しの魔力が皆を包み込む。
直接的な攻撃はロトが引き受けているものの、ガルーダは雷帝の異名の通り無差別に落雷が襲い掛かる。
その落雷をかわしアムルが間合いを開けた時、続けざまに彼を雷が襲った。
咄嗟に後ろに跳躍してそれをかわし城壁の端に着地するが、その雷の衝撃波が彼を襲いアムルはバランスを崩す。
「…しまった…!!」
次の瞬間、アムルは城壁から足を踏み外し、その体は宙に投げ出される。
「アムル!!」
思わずロトがそちらに気を取られると、そこをガルーダの鉤爪が襲いロトは慌てて盾で受け止めた。
「他人を気にする前に、自分の身を心配するのだな!」
「…貴様…!!」
ロトは小さく呟き鉤爪を押し返すと、再びガルーダに切りかかった。
その頃、城壁から落ちたアムルは途中の出っ張りに手をかけ地上への衝突だけは免れていた。
しかし、城壁の出っ張りも僅かなもので腕の力も何時までも持つものではない。
「くそ…こんな所で…!」
魔剣を背負い直し、両手で出っ張りを掴んだ時だった。不意に何かの上に足が付く。
それに驚き下を見ると、そこには森で出会った飛竜の姿があった。
「…シグムント…!?」
アムルが名を呼ぶと、シグムントは嬉しそうに声を上げる。シグムントは器用に羽ばたきアムルと城壁の間に首を潜り込ませ、アムルを首に跨らせる。
そして、アムルがちゃんと乗った事を確認すると城壁を離れ舞い上がった。
「また…助けられたな。」
苦笑しアムルが首を撫でるとシグムントは上昇し始め、アムルはシグムントの鞍に括り付けられていた槍を見つけるとそれを握り締めた。
上では落雷が絶えず起こり、回復を続けるユリディナにも疲労の色が見え始める。
ロトも気力を振り絞り障壁を張り攻撃を受け止めるが、雷と攻撃が重なった事で予想以上の衝撃に思わず膝を付いた。
「…これで終わりだ…仲間の下へ送ってやる!」
それを逃さず、ガルーダは舞い上がり一気に仕留めようと急降下をする。しかし、そこで突如、突風が吹きガルーダは慌てて体勢を立て直した。
「…終るのはテメェだよ。」
不意にガルーダの背後から声が聞こえ、同時に強い衝撃がガルーダの身体を貫いた。
「…この…槍は…!!」
自分を貫いた槍に驚愕しガルーダが上空を見上げると、そこには飛竜に跨るアムルの姿があった。
飛竜は旋回し急降下を始め、アムルはその背から飛び降りると魔剣を振りかぶりガルーダを切り裂いた。
「ま…さか…飛竜が生き残っているなど…!」
アムルはそのまま意識を集中させると魔剣が闇を纏い始める。そして、振り向きざまに剣を振りぬき放たれた闇の衝撃波がガルーダの飲み込んだ。
周囲に断末魔が響き現れた時と同じ様にガルーダに落雷が落ち、その閃光と共にガルーダは姿を消した。
肩で息をしつつアムルは立ち上がり上空を見上げるとシグムントがゆっくりと旋回し、同時に東の空から日が昇り始めた。
「…私は父の跡を継ぎ、このサロニアの王になろうと思います。サロニアに再び平和を…それが父の遺志です。」
国王の葬儀が済み、謁見の間の玉座の前でアルスは頷いた。
「こんな時代に…あなた方の様な人が居ると思うと、まだ頑張れると思うのです。何時までも悲しんでいては父上も喜びませんしね。」
そう言ったアルスには最初に会った時の様な、どこか怯えた様子は見えなかった。
サロニア城の前の広場で、力強く頷くアルスの姿を思い出しつつアムルは笑みを漏らす。
「アムル、出発するぞ。」
「ああ。」
ロトに声をかけられ、アムルは新型飛空挺ノーチラスに向かい歩き出し振り返る。
「…しっかりやれよ。アルス。」
そう呟き、飛空挺へ乗り込んだ。
城の自室で両親の肖像画に向かい祈りを捧げていたアルスは、ふと顔を上げテラスへと出た。
すると、その脇を広場からノーチラスが南へと向かい飛び去って行き、それを見送るように空を旋回する飛竜の姿があった。
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