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金装飾の館


 水のクリスタルが光を取り戻し、大陸が浮上してから一ヶ月後…
町の郊外にある川辺の草原にロトとアムルの姿があった。
長剣と小剣を持ち静かに立つロトにアムルは魔剣を構え間合いを計る。
そして、一気に間合いを詰め魔剣を振り払うが、ロトは軽くそれをかわし長剣でアムルを牽制する。
アムルは咄嗟に後退し切先をかわすと大きく振りかぶり剣を振り下ろす。しかし、ロトはそれを小剣で受け止め、そのまま刀身を滑らせ間合いを詰めるとアムルの喉元に剣を突きつけた。
「…ぅ…。」
 懐に潜り込まれ、アムルは動きを止める。
「…無駄に動きが大きい。これで5度目。実戦なら5回は死んでるな、アムル。」
 そう言ってロトは剣を下ろし、アムルは溜息を吐き座り込む。
「はぁ…まだまだ敵わないなぁ…やっぱり。怪我人から1本も取れないなんて…。」
 その姿にロトは笑い、剣をおさめる。
「お前より何年長く剣を扱ってると思ってるんだ。これで負けたら私の方がへこむよ。
でも、アムルはスジが良い。ここ数日で見違えるほど上達したよ。
…私よりお前の方が剣士には向いているかもしれないな。アムルは力もあるし体力もあるから。」
「ユリアスにも言われた。スジは良いって。オレとロトじゃタイプが違うとは言われたけど…。」
 自分の言葉に本当に嬉しそうに笑う弟の姿に、ロトは微笑んだ。
「ユリアスにも言われたのなら大丈夫だよ。もっと剣の腕も上達するさ。」
 それにアムルは魔剣を見つめる。
「…使いこなせて無いよなぁ…。」
 アムルが呟きロトも魔剣を見る。初めて見る形状の独特のそりがある片刃の剣。ユリアスの話だと魔剣士が扱う暗黒剣の種類で刀と言うらしい。
「初めて見る種類だから私も何とも言えないけど…でも、剣もお前を助けようとしてくれている。そんな感じはするよ。」
 そうロトが言った時だった。草原を風が吹きぬけロトの着ていたシャツの合間から胸に巻いた包帯がチラリと見える。それにアムルは表情を曇らせた。
「…ロト、傷は…大丈夫か?」
「ん?ああ…時々疼く事はあるけど…。これぐらいで音を上げてられない。心配するなよ、大丈夫だから。約束しただろ?必ず皆で帰るって。」
 アムルの問いにロトが笑って答えた時、ユリアスが2人を探してやってくる。
「ここに居たのか。」
 そこで座り込み自分を見上げるアムルの姿に笑みをもらす。
「大分しごかれているようだな。だが、程ほどにしておけ。ロトも無理をするな。」
「でも、いつまでもこの街に留まって居る訳にもいかない。最後のクリスタルの事もあるし…。」
 そう言ったロトにアムルは不安げな顔をする。それを見てロトは首を振った。
「…ザンデは私たちの行動は把握してるんだ。きっと…次のクリスタルでも邪魔をしてくる。それに闇の氾濫が何時再び起こるとも限らない。ユリアス、もう用意は整ってるんだろう?」
 ロトに問いかけられユリアスは苦笑し肩をすくめる。
「ああ、何時でも出発は出来る。…後はお前の体調次第、だ。」
 するとロトは静かに頷いた。
「明日…出発しよう。」

 翌日、エンタープライズに付けられた鎖を外してもらうべく、4人は町の南にあるゴールドルの館にやって来た。
絢爛豪華な…しかし悪趣味とも言える金で覆いつくされた館で、その館の主・ゴールドルと対峙する。
しかし、ゴールドルは4人の姿を見ると有無を言わさず剣を向け襲い掛かってきた。
「…おっさん、いきなり襲い掛かってくる事は無いだろうが。」
 不意を突かれつつも、なんとか館の主を退けアムルは膝を付いたゴールドルに呆れた顔をする。
「私達は、ただ船に付けられた鎖を外して欲しいだけなんです。」
「黙れ黙れ!そんな言葉に騙されんぞ!!」
 ロトの言葉にもゴールドルは聞く耳を持たず、踵を返すと奥の部屋へと走り去る。
4人が顔を見合わせ追いかけると、そこには金色に輝くクリスタルの前に立つゴールドルの姿があった。
「これは私の物だ…!!お前達に取られるくらいならば…!!」
 ゴールドルが叫んだ瞬間、クリスタルにひびが走り4人の目の前でクリスタルは粉々に砕け散った。
「クリスタルが…!!」
 ユリディナが悲鳴に近い声を上げるとゴールドルは狂ったように笑い、そして彼の身体から滲み出した黒い闇がその身体を包み込み消えていった。
「な…。」
「…心の闇に負けたのだ。闇の力が強い今…強い欲望は外に噴出し、その人物を喰い尽くす。」
 ユリアスはやり切れない表情でゴールドルの立って居た場所で小さく光る鍵を拾う。
「鍵は手に入ったけど…。」
「クリスタルが…。」
 ユリアスを除く3人は、呆然と床に散らばるクリスタルの欠片を見つめる。その様子にユリアスは溜息をつき口を開いた。
「ひとまず街へ戻ろう。今後の事を考えねばならん。」

 エンタープライズの鎖を解き、街へ戻った4人は宿へ向かう。
その部屋で無言の時間が流れて行き、アムルは溜息をついた。
「…アムル、幸せが逃げるぞ。」
 その様子にロトが呟くと、アムルは苦笑し顔を上げる。
「しかし…どうする?これから…。」
「あのクリスタル…本物だったのかな…?」
 唐突な言葉に2人は驚いてユリディナを見る。すると、ユリディナはクッションを抱いたまま思い出すように首を傾げた。
「あれ…全然暖かくなかった。心…感じなかった。他の3つに比べたら凄い無機質で…。」
「ユリディナの言うとおりだ。」
 その声に3人が振り返ると、1人外に出ていたユリアスが戻って来た所だった。
「こんな所に土のクリスタルがある筈は無い。あれは…もっと北、古代人の都跡にある筈だ。それに仮にあれが本物だったとしたら既に世界に異変が起こる筈。」
「じゃあ…クリスタルは…。」
 アムルが問いかけるとユリアスは頷く。
「土は…まだ北の大地に眠っている。」
「それなら、他の大陸を巡れば新しい情報が得られるかもしれないか…。」
 ロトが考え込むと3人は顔を見合わせる。
「東にサロニアって言う大きな国があるみたい。」
「サロニアか…あそこには膨大な蔵書を誇る図書館があると言うな。」
 ユリディナとユリアスの言葉にロトは地図を広げる。
「大きな町ほど情報は集めやすいかもしれないか…。」
「…じゃあ、サロニアに決まりだな。」
 アムルが呟くとロトは黙って頷いた。

 出発を翌日に控えた夜…ユリアスは町外れにある墓地に居た。
そこで一つの墓の前で静かに祈りを捧げる。
「…兄様?」
 そこへユリディナが姿を見せユリアスは黙って立ち上がる。
「…ごめんなさい…私にもっと力があれば…。」
 そう言って俯いた妹にユリアスは静かに首を振る。
「お前のせいではない。あの時…闇の力に気がつけなかった私の責任だ。」
 ユリディナは頬に流れた涙を拭い持ってきた花を手向ける。
「彼女のためにも…闇の氾濫を止めないと…。」
「ああ…エリアの願い…だからな。」
 ユリアスは空に浮かぶ月を見上げ静かに笑みを見せた。

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