薄暗い中水の流れる音が響く。
下水道とは言っても中を流れる水は綺麗で地下水路と言った意味合いが強い。
とは言え薄暗く湿気の多い環境は、それを好む魔物の恰好の棲み家となっていた。
余計な戦いを避けつつ、行く手を阻む魔物の敵視を集めるようにアムルは突っ込むと魔剣が教えてくれる様に剣を地面に突き立て闇の力を解放する。
それを後ろからユリアスが魔法で補助しつつ魔物を倒し道を開く。
───下水道に入って何度目かの魔物を切り伏せ、アムルは魔物の亡骸に足をかけ魔剣を引き抜く。
その姿を見つつユリアスは溜息をついた。
「…あのな、アムル…。もう少しスマートに戦えんのか…。」
「…仕方ないだろ!今まで剣なんて使った事無いんだから!いくらクリスタルの力借りたって、立ち回りまで変わる訳無いし!」
魔剣に付いた魔物の血を払いアムルは反論しつつもガックリと肩を落とす。
「見てる限りスジは良いんだがな…。」
「…オレ…剣なんて、まともに習った事無いから…父さんやロトの真似するしか出来ねぇよ…。」
自分の言葉に落ち込みつつ呟いたアムルの姿にユリアスは微笑する。
「人それぞれ戦い方があるものだ。始めは真似でも良い。次第に自分の戦い方を掴めばな。
…とは言え、お前達の場合…そもそもタイプが違う気がするが…。」
「とりあえず、ロトが起きたら基礎を教えてもらうさ。」
そこで奥から悲鳴が響く。2人は顔を見合わせ走り出す。
「…さっきの老人達か。」
「放っておけないだろ、助けようぜ!」
通路の先に見えた爺さん達の姿にアムルは魔剣に手をかける。だが…。
「は…?」
通路を抜け爺さん達を取り囲んでいた魔物の姿にアムルは力の抜けた声を出す。
爺さん達を取り囲んでいたのは普通のゴブリンだったのだ。それにユリアスはこめかみに指を当て溜息を付き、サンダーを範囲を広げ放つ。
すると、それに驚いたゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
「いやー、助かったわい。」
4人のリーダー格の爺さんが暢気に笑う。その姿にアムルは脱力しつつ口を開いた。
「あのさぁ…こんな所に何しに来たんだよ…。」
「ここは危険だ。早く街に戻った方が良い。」
ユリアスの言葉に爺さん達は顔を見合わせた。
「やはり若いもんには敵わんのぅ。」
「わしらはちいっと休んでから帰るとするよ。」
そう言って休憩し始めた爺さん達に念を押し、2人は下水道の奥を目指した。
その頃、宿でロトの看病をしていたユリディナは宿の女将から貰った花を花瓶に活け、枕元のサイドテーブルに置く。まだ目覚めない様子に溜息をつき、ロトの顔に日の光が当たり始めた事に気がつきレースのカーテンを閉めた。
「…ユリ…ディナ…?」
不意に名を呼ばれユリディナは驚いて振り返り、ベッド脇に座る。
「…ロト?」
そっと問いかけると、ロトはゆっくりと目を開いた。
「助かったよ、爺さん。」
町の広場で爺さん達と一緒に下水道から戻ったアムルは爺さんに礼を言う。
あの後、下水道の奥で浮遊草の靴を持つデリラ婆さんと会った2人だったが、他人を信用していなかったデリラはニセモノを渡そうとしたのだ。
そこへ4人の爺さんがやって来て、デリラに本物の靴を渡すように説得してくれたのだった。
「お前さん達の役に立てたなら、わし等も嬉しいわい。お前さん達はこれからも頑張らないといかんしのぅ。」
「おや、あれはお前さん所の嬢ちゃんじゃないのかい?」
そう言われ2人が振り返るとユリディナが息を切らせて走ってくる。
「!!…アムル!兄様!!ロトが目を覚ましたの!」
「本当か!?…悪いっオレ、先に戻る!!」
ユリディナの言葉を聞くや否や、アムルは挨拶もそこそこに宿に向かって駆け出した。
「あ!アムル!!」
それにユリディナは慌てて爺さん達に大きく頭を下げると、アムルを追って宿へと戻っていく。
その姿をユリアスは苦笑しつつ見送る。
「まったく…心配で仕方なかったくせに無理をしおって…。」
「…素直な良い子じゃな。本当、仲間を大切にしておる。」
「多少、ひねとるがの。」
爺さんの言葉にユリアスは笑い空を見上げる。
宿に戻ったアムルはロトの居る部屋の扉を勢い良く開ける。すると、ベッドに横になっていたロトはそんなアムルの姿に微笑んで見せた。
「…おかえり。ロト。」
「……ただいま。」
腰に手を当てアムルは笑って声をかけると、ロトは短く答えた。
それから数日後…
ユリディナはロトの傷の具合を見て包帯を巻きなおす。虚無の力で受けた傷は自然回復力を殺し魔法での回復の効果が薄いため、徐々に回復するのを待つしかなかった。
「…すまない…。」
上着を着なおしロトは申し訳無さそうに謝る。その姿にユリディナは呆れた顔をした。
「何言ってるの、当たり前の事なんだから謝らないの。身体の調子、大丈夫?」
「悪くない…大丈夫だよ。」
そう言ったロトの顔をじっと見つめ、満足そうに頷きロトを横にさせると部屋を出て行く。その姿を目で追いつつロトは溜息をついた。
「…溜息ばかり吐いてると、幸せが逃げて行くんだぞ。」
その声に窓を見ると、部屋の外からアムルが覗いていた。
「なあ、ロト。動けるようになったら剣の使い方、教えてくれ。」
「…え…?」
思いがけない言葉にロトは問い返すとアムルは手に持っていた魔剣を見せる。
「オレ、魔剣の主になった。何か剣に気に入られたみたいだ。」
「魔剣って…。」
不安げな顔をしたロトにアムルは肩をすくめる。
「ウルで見たサロニア史でレオンハルトが使ってた片刃の剣…らしいんだけど、気に入られたは良いけど剣なんて使った事無いんだぜ、オレ。使えなきゃ意味がない。」
魔剣を前に置き不貞腐れるアムルの姿に、ロトは笑いつつ頷いた。
その頃、外の水場で手を洗うユリディナの所へユリアスがやってくる。
「ユリディナ、どうだ?ロトの様子は…。」
「兄様…うん、順調に回復してる。…けど…。」
そこで語尾を濁したユリディナにユリアスは首を傾げる
「時々…ロトがロトじゃない雰囲気を感じるの。なんと言うか…物静かな雰囲気は前と同じ。でも、以前より生命力が強くなってる。これは、彼にとっては良い事なんだけど…。」
それを聞きユリアスは少し考え込んだ。
その日の夜。アムルとユリディナが寝た後にユリアスはロトの居る部屋へとやって来る。
「…ユリアス…?」
「…すまん、起してしまったか。ああ、無理をするな、起きなくても良い。」
身体を起そうとするロトを制止し、ユリアスはベッドの隣に腰をおろす。
「どうしたんだ…?こんな時間に…。」
ロトが問いかけるが、ユリアスは黙ってロトの様子を見る。
『…私の事ですね?』
その声にユリアスが驚き顔を上げると、小さく光が弾けロトの枕元に幼竜が姿を現した。
「お前は…あの時の光竜か…?」
ユリアスが問いかけると幼竜は頷き姿を消す。
「…助けられたんだ…あの子に。あの時…ユリアスが転移された後、あの光竜が自分の命を…私に与えてくれたんだ。」
「…禁呪…魂の同化か。しかし、それは吸収される側の意識は消える筈…。」
ロトの言葉にユリアスが考え込むと、ロトは困った様に首を傾げた。
「しかし、まあ…イレギュラーではあるが、そう言う事ならば良い。ユリディナがお前がお前じゃない様に見える時があると言ったのでな。魔物に憑かれては居ないか心配になったのだ。
似たようなものではあるが…正体がはっきりしているならば問題ない。
とりあえず、今は自分の身体を大切にしろ。自分のためだけじゃない。他の者のためにもな。」
ユリアスはそう言って優しく笑い部屋を出て行った。
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