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水の導く街


 水の神殿でユリアスは転移された際の魔力の痕跡を辿り魔力を紡ぐ。
しかし、突然弾かれるような衝撃を受けユリアスは膝を付いた。
「…ダメ…か。」
 呟き祭壇に手を当てうな垂れた。

 カーテンの閉められた部屋でアムルは目を覚ます。
何処かの宿の一室だろうか…状況が良く判らず身体を起し部屋を見回しベッドから降りると扉から部屋を出た。
「目が覚めたようだな。」
 その声に顔を上げるとユリアスが歩いてくる。
「3日間…ずっと眠っていたのだ。大丈夫か?体の方は…。」
「…ああ…そうか…3日も…。なあ、ユリアス。」
 戸惑いがちなアムルに問いかけられ、ユリアスは首を傾げる。
「…ロト…は?」
 予想していた問いにユリアスは目を伏せ首を振った。
「わからん…水の洞窟は入口が地震で崩れた岩でふさがれて居た。町の住人が岩を退かす作業をしてくれているが…何時になるか…。それに、結界の作用なのかクリスタルの間には転移する事は叶わなかった。どうなったのか…確かめられん。」
 その答えにアムルは俯く。その時だった。ユリディナが寝ていた部屋から悲鳴が上がる。
2人は顔を見合わせ急いで部屋に向かうと、ユリディナは怯えた様子でベッドの上でうずくまって居た。
「どうした!?ユリディナ!!」
「……こわい……こわい……何か…闇の中から出てこようとしてる……!」
 ユリディナはただ何かに怯え、小さい子供のように泣き続ける。
「落ち着け。大丈夫だ。私たちが居るから…。」
 ユリアスは優しく声をかけ、落ち着かせるようにユリディナを抱きしめる。
その様子にどうすれば良いか分からず、アムルはユリアスに任せて部屋を出た。
そこで急な耳鳴りに頭を押さえ顔をしかめる。すると、町の中を流れる水路の中州に光を反射させる物に気が付いた。
 ユリアスがようやくユリディナを落ちつかせ寝かしつけ部屋を出て来た時、アムルが水路の中州にいる事に気が付き視線を向ける。
そこでアムルが何かに手を伸ばそうとしている事に気がつき、それから感じる力に眉をひそめた。
「…アムル!ダメだ!強い負の力を感じる…それは危険だ!」
 それと同時にアムルはそこにあった片刃の剣を拾い上げた。次の瞬間、アムルは剣から溢れた闇に飲み込まれた。

───突然の事にアムルは周囲を見回す。
しかし、周りは何も見えずただ漆黒が包み込んでいた。
『我が声に答えし者よ…。』
 どこからともなく声が響く。
「誰だ!?」
 アムルが身構え問いかけると、目の前に漆黒の鎧を纏った剣士が姿を現した。
『我は遥か昔に2つに分けられし魔剣…。どうか、我と盟約を交わし古の民が作りし城に宿りし虚無を打ち滅ぼして欲しい。城の地下に封じられし我の片割れ…虚無の手に落ちれば取り返しのつかぬ事になる…。』
 剣士の言葉にアムルは警戒を解かずに口を開く。
「…そんな魔剣が何であんな町にあったんだ?何で今まで誰もお前に気が付かなかったんだ。」
『負の力が強いこの状況においても、それに飲まれることなく冷静を保っている…か。中々、素質があると見える。…我をあの地へ埋めたのは、前の主…魔剣士レオンハルト。
かの場所は今まで水の底にあった。大陸の上昇と共に水位が下がり…同時に我が声が届く者が訪れた。…これも何かの縁であろう?』
 魔剣士レオンハルト…アムルは、その名に聞き覚えがあった。
かつてウルで見かけた古い歴史書・サロニア史。
聞いた事の無い地名だったため作り話だと思っていたが、その話は惹かれるものがありアムルにしては珍しく何度も読んだ本だった。
構えつつも黙り込むアムルの姿に剣士は話を続ける。
『汝の中にあるはクリスタルの輝きと見る…。水の力を得たのであれば魔剣士としての力もあろう。
我が主を見つければ片割れが虚無に悪用されるのを防ぐ事もできる。無論、ただで盟約を交わそうとは言わぬ。我が主となる代償として汝の望み…1つだけ叶えよう。』
 その言葉にアムルは少し考える。
「…その望みは…どんな場所へでも転移は可能なのか?」
『ここは汝の心の闇とも言える場所。汝が望めば、行った事のある場所ならば転移は可能だ。』
 剣士の答えにアムルは構えを解き上着を握り締めた。
「…わかった…。お前と盟約を交わそう。だから…頼む。オレを…水の洞窟へ、クリスタルの間へ連れて行ってくれ。」
『…それが、汝の願いならば…。』
 その言葉と共にアムルは再び闇に包み込まれる。
次にアムルが立って居たのは水のクリスタルの間だった。大陸上昇時の揺れの影響で所々、天井が崩れ岩が転がっている。その岩を越えた時だ。
「あ…。」
 クリスタルの前に横たわるロトの姿にアムルは慌てて駆け寄った。恐る恐る口元に頬を寄せ頼りないながらも呼吸をしている事に安堵し座り込む。
攻撃を受けたと思われる鎧の胸の部分が砕け、痛々しい傷が見えている。
出血は止まっているものの傷口は完全に塞がっている訳では無い。
とにかく連れて帰らないと…。そう思いロトを抱き上げようとした時、彼の手から赤いピアスが転がり落ちた。
無意識にアムルはそれを拾い上げるとロトの腰のポーチに入れ、彼を抱き上げる。
すると、それを待っていたかのようにクリスタルが光を放った。その光の中、クリスタルの声が響く。
“光の戦士よ…光と闇を分かつ者達よ…この世界に…再び平和を…”
そして、2人はその場から姿を消した。
光が収まった時、そこは水の神殿だった。出口に向かい歩いて行くと入口に人影が見える。それに顔を上げると、そこにはユリアスが立って居た。
「…無茶が過ぎるぞ、馬鹿者が…。」
 そう言ってユリアスは安心した様に顔を緩ませ首を振った。
「ユリアス…なんでここに…。」
「ユリディナが目を覚ました時に、お前達が水の神殿に居ると言ってな。それを確かめに来たんだ。ともかく帰るぞ。」
 アムルの問いにユリアスは短く答え、2人はロトを連れ町に向かい神殿を出た。

 宿に戻りロトの手当てが一段落した時、ユリアスは町で聞いた話を整理する。
「ゴールドル?」
 アムルが不思議そうに問いかける。それにユリアスは頷いた。
「エンタープライズに鎖が付けられていた。それを付けた犯人がそいつらしいのだが…一つ妙な話もあってな。そいつがクリスタルを持っているらしい。」
 それにアムルとユリディナは顔を見合わせる。
「持ってる…?個人の物?」
 するとユリアスも肩をすくめて見せた。
「…土のクリスタルがこんな所にある訳が無いのだが…エンタープライズを自由にしてもらわん事には困る。だが、ヤツが住む館の前には底なしの沼が広がっていると言う話だ。」
「じゃあ…どうするんだ?」
 アムルが首を傾げると、ユリアスは溜息をつく。
「この町の下水道に住む老婆が、浮遊草で出来た宙を浮くことの出来る靴を持っていると言う。借りに行って来る。そう言う訳で、お前達はロトが目を覚ますのを待って居てやれ。」
「…って1人で行く気か?!待てよ、オレも行く!」
 そう言ってユリアスが出て行こうとするのをアムルは慌てて引きとめた。
「…しかし…。」
 躊躇うユリアスにアムルは腰に手をあて呆れて見せる。
「気にすんなよ、大丈夫だ。オレが出来る事は戦う事しか無いし…オレが居たって何をしてやれる事も無い。それに今、ユリアス1人で行かせる訳にもいかないさ。それこそロトが起きた時に怒られちまう。」
「…気付かん内に随分、精神面でも成長していたようだな。」
 そう言ってユリアスは笑って見せた。
ロトの事はユリディナに任せ、2人は下水道を管理している町長の家に向かい歩いていた。
そこで、町の少年が2人に駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ!兄ちゃん達は伝説の4戦士なのか?」
「…伝説?」
 アムルが座り少年に目線を合わせ問い返した時、母親が慌ててやってきた。
「すいません、急に走り出してしまって…。」
「いえ…しかし、伝説…とは?」
 恐縮している母親にユリアスが声をかけると、母親は町に伝わる4人の戦士の話を教えてくれた。
それは、4人の戦士が溢れた光と闇を打ち砕く…と言う話だった。
と、そこへ何処からともなく4人の爺さんがやってきてポーズを取り走り去って行き、唖然として2人は爺さん達を見送った。
「あのおじいちゃん達、自分達が伝説の4人の勇者だと思ってるんだよ。」
 少年は呆れたように呟き2人は苦笑する。
「さぁさ、旅の人の邪魔をしてはダメよ。」
 母親に声をかけられ少年は頷き連れられて行く。
「兄ちゃん、もう1人の兄ちゃん、早く目を覚ますといいね!」
 少年は無邪気に手を振り、アムルはそれに笑いながら手を振り返す。
「…しかし…あの老人達…無茶せねば良いが…。」
「そうだな…ま、ともかく早く下水道に行こうぜ。」
 アムルが肩をすくめるとユリアスは頷き歩き出した。


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