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再生と別れ


 ふと、暖かい光を感じ、光竜は目を覚ます。
先に目が覚めた時からどの位、時が経ったのだろう…いや、時が止まったこの世界では愚問だろうか。
そこで、扉の向こうから聞こえる会話に耳を澄ます。
「…それは、本当の事なのか?」
「ああ。浮遊大陸に送られた3人は光の戦士に屠られた。」
 共に主に仕える仲間と…暗黒魔道士の声。
「奴らは水の洞窟へと向かうだろう。そこで始末しろと…魔王殿のお言葉だ。」
 暗黒魔道士の言葉に仲間が立ち去ろうとする気配。
「ああ、これをくれてやろう。闇の呪いの矢…光の戦士をも葬り去る力を持つ虚無の力の結晶。
使い方はお前次第…。」
 そして、暗黒魔道士は何処かへ転移し仲間は去っていく。
光の戦士が闇に覆われたこの大地に足を踏み入れた…だから目覚める事が出来た…。
そこで、光竜は未だ目覚めぬ主を見る。
自分の力では闇の侵食は止められない…。彼らの力を借りれれば…あるいは…。
再び闇に取り込まれそうになる意識を堪え、光竜は主に頬を摺り寄せた後に舞い上がる。
水の洞窟に向かい…彼らに会わねば…。
僅かに感じる光を頼りに、光竜はその場から姿を消した。

 水の神殿より北にある洞窟で、入ってすぐにある扉の前に跪きエリアは祈りを捧げる。
するとクリスタルの欠片と共鳴し淡い光に包まれると、扉は音も無く道を開く。
「…さぁ、行きましょう。欠片に残った光をクリスタルに還せば、その力が蘇り…世界を海の底から戻す事が出来る筈です。」
 エリアの言葉に4人は頷くと、封印されていた扉の先へ足を踏み入れた。
洞窟の内部は闇の力に当てられ魔物と化した水棲生物が多数居たものの、妖魔の姿は見当たらなかった。そこをロトが攻撃を受け止め防ぐ間に、後ろからアムルが弓で敵を射抜きユリアスが魔法で仕留めて行く。
始めは岩場の多い洞窟だったが次第に水かさが増し、水路を歩くような状態になっていた。
「…2人共、大丈夫かい?ペースが早い時は言ってくれよ?」
 先頭を歩くロトがユリディナとエリアを気にかけ声をかける。それに2人は大丈夫だと笑って答え、ロトは再び歩き出す。
「…扉が見えたぞ!」
 アムルの声にロトは先の暗がりに目を凝らす。すると、そこには洞窟の入口にあったものと同じ扉があった。
重い音を立て扉がゆっくりと開くと奥の祭壇に光を失ったクリスタルがあり、それを見てエリアはクリスタルに駆け寄る。
「…水のクリスタルよ…光を取り戻して…!」
 そして欠片をクリスタルに掲げ祈りを捧げると、欠片から溢れた光がクリスタルを包み込んでいく。
「クリスタルに光が戻っていく…。」
 ユリディナが呟いた時、欠片はクリスタルと一体化しクリスタル自体が光を放ち始める。
「さあ、次は貴方達のその心にある光を水のクリスタルと一つにして下さい。
力の戻ったクリスタルは、この世界を覆う闇の力を振り払い…全ての時間を取り戻せる筈です。」
 エリアの言葉に4人はクリスタルに意識を集中させる。
4人とクリスタルが交感し次第に輝きが増していく。その時だった。
扉の陰から不意に感じた殺気にエリアは振り返る。
「あぶないっ…ユリアス!」
 その声にユリアスは驚き振り返る。そこで目に飛び込んで来たのは自分を庇い、胸に矢を受けたエリアの姿だった。
「エリア!!」
 ユリアスはエリアを抱きとめ、そのまま座り込む。
「くそっ誰だ!!姿を見せろ!!」
 ロトが座り込んだユリアスを庇うように身構え、アムルは弓を番え声を上げる。
すると、扉の方向から人影が姿を現した。
「…光の戦士すら葬り去る呪いの矢をかわすとは…運の良いヤツだ。我が主ザンデ様の命により、これ以上貴様達を進ませる訳には行かん!」
 その声と共にその人影は姿を変え、下半身が頭足類の腕を持つ魔獣クラーケンが襲いかかってきた。
「…2人からヤツを引き離す。それを意識して動いてくれ。」
 ロトが小さく呟きアムルが頷くと、ロトはクラーケンに向かい走り出した。

 ユリアスはただ呆然とエリアを見つめる。
目の前の状況を理解しているが、それを受け入れる事を拒否する自分があった。
クラーケンの放った呪いの矢は役目を終えたとばかりに消滅し、その傷口から流れ出した血が白いローブを見る間に赤く染めていく。
それは、すでに手遅れだと言う事を物語っていた。
「…どうして…魔法が効かないの?」
 必死にエリアに回復魔法を使うユリディナが戸惑い呟く。その手をエリアが制止した。
「これは…虚無の力です。虚無は回復魔法の効果を鈍らせる…私はもうダメでしょう…。行って…2人を助けてあげて。」
 涙を浮かべるユリディナにエリアは優しく微笑み、ユリディナは立ち上がる。そして、ユリアスの様子に俯くとクラーケンと戦う2人の元へ走り出した。
「…ユリアス…。」
 自分を呼ぶ声にユリアスは我に返る。
「エリア…。」
 ユリアスが呼びかけるとエリアは微笑む。
「水の…クリスタルに光が戻ったんですね…。ありがとう…貴方達のおかげ…。」
 そこでエリアは小さく咳き込み、ユリアスは傷口を押さえる。
「…喋るんじゃない…。すまない…私のせいで…また…私は…。」
 そう言ったユリアスの頬を一筋の涙が滑り落ち、エリアの頬に落ちる。それにエリアは微笑むと彼の頬に手を伸ばした。
ユリアスはその手を、そっと握り締める。
「泣かないで…行って下さい。私のためにも…闇を振り払い…この世界に再び…平和を…。」
 そこでエリアは静かに目を閉じユリアスは無言で彼女を抱きしめた。

 クラーケンの触腕がアムルを捕らえ締め上げようとする。
それにアムルは矢筒から矢を抜き触腕を突き刺すと、僅かに緩んだ隙に地面に着地し矢を引き絞り狙いを定めて放つ。
アムルの放った矢がクラーケンの眉間を貫きロトが肩から袈裟懸けに切り裂く。
そこでクラーケンは動きを止め地面にくず折れた。剣の血を払いロトは黙って倒れたクラーケンを見下ろし溜息をつき振り返ると、クリスタルへと向かい歩き出した。
その時、小さな揺れが洞窟を襲う。次第に揺れは大きくなっていき立っていられない程になって来る。
“このままでは…終らぬ…貴様も…道連れに…”
4人が地震に気を取られていた時、クラーケンの身体から闇が滲み出し宙に漆黒の矢を形作ると、クラーケンの体は水へと還り消えて行く。
クラーケンを追いやってきた光竜がクリスタルの間にたどり着いたのはこの時だった。
『…危ない…!!』
不意に頭に響いた声にロトは咄嗟に身体を捻る。しかし、胸に強い衝撃を受け、彼は弾き飛ばされてクリスタルの台座に叩きつけられた。
「ロト!?」
 突然の事にアムルが駆け寄ろうとするが、そこで先程から続いている地震で洞窟の天井が崩れ落ちる。
次の瞬間、アムルとユリディナは光に包まれその場から姿を消す。
「…ユリ…アス、私は…いいから…行って2人を…。」
 ユリアスが転移の魔法を使った事に気がついたロトはそう言って胸を押さえ咳き込む。抑えた手の間から血が流れ出していた。
「だめだ…お前まで置いて行く訳には…。」
 そこまでユリアスが言った時、ユリアスとエリアを包み込むように魔法陣が描き出される。
「これは…!?」
「…強制転移させます。」
 その声にユリアスが扉の方を見ると、白いローブをまとった人物が姿を見せた。
「お前は…光竜族の…。」
「この青年は…私にお任せ下さい。」
 白ローブの人物…光竜の言葉と同時に魔法陣が光を放ちユリアス達は姿を消し、光竜は倒れるロトを見下ろした。
ロトも光竜を見上げるが、すぐに笑みを見せる。
「…ありが…とう…。」
 それに光竜は理解出来ないと言うように首を振った。
「何で…礼を言うんだ…!?こうなったのは私達の所為なんだ。それなのに…。」
「…さっき…教えてくれただろ?闇の力を…。」
 そう言ってロトは頭を下ろし目を閉じる。その呼吸は次第に浅いものになって行く。
身体を捻った事で急所への直撃は外れたものの、それでも虚無の力は人の命を奪うには十分な力を持っていた。
光竜は膝をつくとロトの胸に手を当てた。ロトがやっと目を開けると光竜は静かに微笑む。
「君達なら…あの方を止めてくれるかもしれない…。闇の侵食を取り除く事が出来るかもしれない。それに守護者殿に約束した。君を…助けると。」
 そして地震が続く中、真っ白な光がクリスタルの間を包み込んだ。
揺れが続く中、水の神殿に転移させられたユリアスは外へをやってくる。そこで、さらに大きな揺れが起こり大陸が上昇し始めた。
同時に空を覆っていた不気味な暗い雲の合間から光が差し込み始め、雲が次第に千切れて霧散していく。
「…大地が…目覚めたか…。」
 ユリアスが呟く。
水没した大地が完全に上昇し空を覆っていたく暗い雲が消えた瞬間、眩い光が世界を包み込んだ。
その光が収まった時、そこには本来の時間を取り戻した世界の姿があった。

 空を覆っていた漆黒の雲は水のクリスタルの目覚めによってその姿を消した。しかし、それは完全に消えた訳ではなかった。
薄暗い塔の一室で、ベッドに横たわっていた男にも変化が起こる。
一つ、大きく息を吐き出すとゆっくりと目を開く。
「…何故…目覚めた…。」
 ポツリと呟く。
「光が動き出した。風・火・水…3つがその力を人に託したようだ。」
 男の言葉に魔道士が答える。
「…“土”が動いたのだな。」
 苦笑し男は身体を起す。と、そこで傍らにあった白い羽根に気が付き辺りを見回した。
「あの子は…どうした?」
「死んだよ。光の戦士を助けてな。」
 暫しの沈黙。そして男は自嘲めいた笑みをもらす。
「暗黒魔道士…光の動向は把握出来ているのか?」
「時折、足取りを光に邪魔され途絶える事はあるが…ほぼ問題なく。ご指示を。魔王ザンデ殿…。」
 漆黒の魔道士…暗黒魔道士の言葉にザンデは頷き立ち上がる。その時、首に下げていたネックレスの牙の装飾が4本砕け落ちた。
それに一瞬、表情を曇らせるがすぐに何事も無かった様に顔を上げる。
「ティターンは土の、ガルーダは引き続きサロニアの王を監視せよ。」
 ザンデの言葉に部屋の隅に膝をついていた影が姿を消す。
「お前には再度、闇を召喚する準備をしてもらう。」
「仰せのままに。」
 暗黒魔道士は一つ、頭を下げ闇に包まれ姿を消す。
「…やはり…お前に闇は辛かったのだな…。」
 1人部屋に残ったザンデは手元に残った光竜の羽根と、ひびの入った牙型のピアスに視線を落とし呟いた。
小さく溜息をつき、ピアスを耳につけ羽根を懐にしまう。そして、マントを羽織ると部屋を後にした。

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