果てしなく広がる大海原…
アムルはモニターに写し出される地図と見比べつつエンタープライズを飛ばす。
「んー…。」
「本当に…何も…無いのかな?」
数時間経っても変化のない景色にロトが不安げに呟いた時、モニターにふとした変化が現れた。
「島影だ!!」
「本当か!?」
アムルの声にロトは慌てて外を見る。
地図に映し出された方向に進路を変え少し飛んだ時、前方に島影が見えてきた。
その島に近づいて行くと、海岸に近い浅瀬に乗り上げた難破船が見える。
「…船…?」
「…降りてみよう、アムル。」
ロトが声をかけるとアムルは頷き、難破船の手前に着水した。
異様な静けさが辺りを包む中、4人は難破船に乗り移り船室への扉を開け慎重に階段を降りて行く。
中は薄暗く奥まで良く見えない。そこで壁にかけてあったランプに火を灯すと、すぐ傍で椅子に腰掛ける人影が浮かび上がった。
しかし、呼吸している様子が見えず4人は顔を見合わせる。
少しの間を空けロトが意を決し頷くと、そっと人影の正面に回り顔を覗き込んだ。
「……え?」
そこには1人の老人が座っていた。
しかし予想に反しまるで生きていてもおかしくは無い普通の顔だった。
髑髏が座っているかもしれないと覚悟していたロトは意表をつかれ困惑した顔をして3人を見た。
それに3人も老人に近づいてくる。
「…人形…?」
「いや…見たところ生身の人間のようだが…まさか…。」
ユリアスが呟き老人に手を伸ばす。その時だった。
不意に老人が呼吸を始めぼんやりと目を開く。
「お…おお、いかんいかん。眠ってしまっていたようじゃの…。」
そこで目の前に立つ4人の姿に驚いて顔を上げた。
「…人…!!わしらの他に生きておる者が居ったのか!?」
その言葉に4人は顔を見合わせた。
「大地震が起こった後、世界は海に沈んでしまった…。丁度、船に乗っていたんで、わしは助かったんじゃ。」
「…他に…生き残った人は…?」
ユリアスが問いかけると老人は静かに首を横に振る。
「わしの知る限り…この辺一帯では、わしと奥に眠っている娘だけじゃよ。あの娘…数日前に板切れにしがみついて漂流していたんじゃ。」
その言葉に4人は奥を見た。
4人は老人に断り奥の部屋へと向かう。
すると、そこには老人と同じ様に…人形のような少女がベッドに横たわっていた。
ベッドに近づくと、少女も老人と同じ様に呼吸を始める。しかし、その様子はうなされているようだった。ロトがユリアスを見るとユリアスは頷き少女に薬を飲ませる。すると顔に血の気が戻りゆっくりと目を開いた。
「…気がついたか?」
ユリアスが声をかけると、少女は辺りを見回す。
「ここは難破船だ。お前は海を漂流していた所を、この船の持ち主である老人に助けられたのだ。」
そう言って、ユリアスが優しく微笑むと少女は驚いて4人を見た。
「あ…貴方達の心の中にあるその光は…!貴方達はクリスタルに力を託された戦士…。クリスタルは戦士を選んだのですね…良かった…。」
「貴女は詳しい事情を知っているの?一体…なにがあったの?」
安堵の溜息をついた少女にユリディナが問いかけると、少女は慌てて顔を上げた。
「申し遅れました、私の名はエリア。水のクリスタルに仕える巫女です。
…土の力が…大地震を引き起こしたのです。そして、水のクリスタルは土の力に引きこまれ地中深くに沈みました。水の力に守られていた人々は石にされ大陸は海に沈んだのです。」
エリアはそこまで言って小さく咳き込む。ユリアスは背中を擦り水を汲むとエリアに手渡した。
それを飲んで一息つきエリアは再び口を開く。
「私を水の神殿に連れて行って下さい!そこに水のクリスタルの欠片がある筈です。それを地中に沈んでしまったクリスタルに捧げれば呪いが解けるかもしれない…。」
「でも、その身体で…。」
ユリディナが心配そうに声をかけると、エリアは微笑んでみせる。
「大丈夫です。それよりも世界を元に戻さなければ…。それが残された私の使命でもあり貴方達の旅のお手伝いになるんです。」
その言葉に4人は顔を見合わせると、ロトは頷く。
「分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ロトの返事にエリアは嬉しそうに微笑み大きく頭を下げた。
エリアを伴い老人が居る部屋へ戻った4人は、老人に礼を言いエンタープライズへと戻る。
そして、エリアの記憶を頼りに水の神殿がある方向へと進路を進めた。
「水の洞窟には封印された扉があります。クリスタルの欠片を持ち祈りを捧げれば通れる筈です。」
飛空挺の船室のベッドで横になりエリアは小さく咳き込む。
「無理をするな。病み上がりなのだから。」
ユリアスはそう言って毛布をかけ直す。
「…ユリアスさんは…不思議な方ですね…。クリスタルの光だけでは無く…まるで…守護者様に似た…。」
「…ユリアスで構わんよ。」
そう言いユリアスは部屋を出ようとするが、不意にエリアにマントを掴まれ振り返る。
「あ…すいません…!」
エリア自身も無意識だったのか、顔を赤くして毛布で顔を隠した。
その様子にユリアスは少し戸惑うが、戻ると再びベッド脇の椅子に腰をおろした。
「気にする事はない。別に…上に行っても暇なだけだ。」
ユリアスが笑みを見せると、エリアは嬉しそうに微笑んだ。
「一つ…聞いても良いか?水の守護者は…どうなったのだ?」
クリスタルに仕える巫女や神官の上には守護者と呼ばれる者が居た。風や火の2つでは既に仕えて居た者達は全員命を落とし会うことは叶わなかった。
ユリアスの問いにエリアは暗い顔をする。
「大地震が起きた直後、地中にクリスタルが沈んだ時に妖魔がクリスタルを襲ったのです。守護者様のお力で妖魔を退ける事が出来たのですが…その時に受けた傷で命を落とされました…。
守護者様は最後に失われていくクリスタルの光を感じ、再びクリスタルが狙われないように洞窟を封印するよう…私達に命じられたんです。
その言葉に従い、私達は水の神殿周囲に結界を張り闇の力を防いでいました。でも…私以外の皆は力尽きて…。」
エリアの答えにユリアスは目を閉じ溜息をついた。
「水の守護者は使命を果たしたのだな…。それでか、君の言葉から感じた強い決意は。何もそこまで抱え込まなくても良かろうに。」
すると、エリアは可笑しそうに笑みをもらす。
「それはお互い様だと思います。あなたも光の戦士以外にも抱え込み過ぎてる様に見えますよ?」
その言葉にユリアスは苦笑し、視線を逸らすと俯いた。
「…私は…守る事が出来なかったのだ。守る立場にありながら…。それにも関わらず“風”は私を戦士として選ぶと言う。…とんだ皮肉だ。」
小さく呟いたユリアスの姿にエリアは身体を起すとそっと彼の手を握る。
それに我に返り、ユリアスは無理に笑って見せた。
「すまん、君には関係ない事だったな。聞かなかった事に…。」
「無理をしなくても良いんですよ?近すぎて他の皆さんに話すことが出来ないのでしたら、他人の私にお話下さい。吐き出す事で…少しでも気が楽になるのでしたら、私も嬉しいですから。」
自分の言葉を遮り、微笑んだエリアの姿を唖然として見つめていたユリアスは気まずそうに頭をかいた。
「…やれやれ…情けんな、私は…。自分の4分の1も生きていない様な少女に心配されるとは…。」
「見た目は…そうですね、15のままで止まってしまっていますが…もう少し長くは生きていますので気になさらないでください。それに巫女は不安を抱える方達のお話を聞くのも役目の内でしたから。」
そう言ってエリアは再び笑って見せた。
水の神殿へ向かう途中、飛空挺を自動操縦に切り替えアムルは甲板に作った的に向かって弓をひく。
放たれた矢は寸分の狂いも無く、的の中心を射抜いた。
「…何か変な感じだな。クリスタルの力を借りてるんだけど、それだけで使った事の無い武器も使えるようになるなんて。」
アムルの放つ矢は的確に的を捉え、それに自分自身で驚きながらアムルは呟く。
水の洞窟は狭く足場が悪いと言う話から、狩人の力を借りる事にしたのだ。
「確かにそうなんだけど、その力が自分に馴染めばそれは本当に自分の物に出来る。…まあ、切っ掛けみたいな事なんだと思うよ。」
隣でその様子をナークと眺めていたロトが笑いながら答える。
「そうなんだろうけどさ…って、あれ?」
そこで振り向いたアムルは船尾に姿を見せたユリアスを見つけ思わずマストの陰に身を隠す。
その様子にロトは首を傾げ、ちらりと振り向くとユリアスとその後ろをついて行くエリアの姿に気がついた。
2人はロトとアムルに気がついていない様で海を見つめ話を続ける。
「…何やら良い雰囲気…?」
アムルが呟きロトも無言で頷く。なんとも動くにも気まずい雰囲気で2人はそのままナークを挟んでそこに座り込んだ。
暫く無言でそこに固まっていると、ブリッジから降りてきたユリディナが首を傾げる。
「…どうしたの?」
問いかけられ2人は何と答えて良いのか顔を見合わせた。
そこへ話が終ったのか…ユリアスもやってくる。
「何をしてるんだ?お前達は…。」
「いや、アムルの弓の練習を見てただけだよ?」
ロトが慌てて答えるとアムルも無言で大きく頷く。
「ナークの頭にリンゴでも乗せて的にしようかって話してたんだ。」
アムルがそう言うとナークは驚いたように彼を見つめ、それに首を傾げつつユリアスは船室へ戻りロトとアムルは胸を撫で下ろすとナークを連れブリッジへ戻っていく。
そんな様子を微笑みながら見ていたエリアにユリディナは近づいた。
「…エリアさん…ありがとう。」
突然、そう言われエリアは不思議そうにユリディナを見る。
「兄様の話、聞いてくれたでしょ?今、兄様すごく穏やかな気配に変わってたから…。
今まで誰にも話せなかった事、ずっと胸に仕舞いこんでた事話せて気が楽になったんだと思う。兄様…私達には話してくれないから…。」
そう言ってユリディナは俯いた。それにエリアはユリディナの頭を撫でる。
「ユリディナさんも優しい人ですね。本当に少しでもあの人の雰囲気が和らいだなら…私もお話を聞いた甲斐がありました。」
それにユリディナは、はにかんで耳の先が赤くなる。
「冷えてきたから船室、戻ろっか。」
「はい。」
頬を撫でる風にユリディナが顔を上げるとエリアは微笑み頷いた。
───水の神殿。
そこの祭壇に結界で護られたクリスタルの欠片が安置されていた。
「良かった…!まだこの欠片には光が残っているわ…!」
エリアは淡い光の宿る欠片に安堵し結界を解く。
「なんでクリスタルの欠片なんてあるんだ?」
アムルが不思議に思い問いかけると、エリアは欠片を手に取り振り返る。
「大地震が起きた後…地中に沈んだクリスタルを妖魔が襲い、その際にクリスタルが欠けてしまったのです。その為、私達は水の洞窟を封印し欠片を神殿に安置しました。
直後、大陸が海に沈み…この一帯は欠片に残った光と私達が張った結界で水没を免れたのだと思います。さあ、北にある洞窟に行きましょう。この欠片の光を当てればきっと…。」
そう言ったエリアの言葉に4人は頷き、神殿を後にした。
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