「…ト。ロト…しっかりしろ。」
「う…。」
自分を呼ぶ声にロトは目を覚ます。辺りは薄暗い。
「気が付いたか。」
安堵のため息。見るとユリアスの姿が見えた。そして、状況が飲み込めずユリアスに問いかける。
「ここは…?」
「大ホールの真下だ。先ほどの地震で出来た地割れに巻き込まれて下に落ちた様だ。」
その答えを聞き上を見上げると、僅かに光が見える。それほど高さは無いようだが逆すり鉢状な為、ここから上るのは無理なようだった。
状況を把握し体を起こした時、左腕に鈍い痛みを感じロトは腕を押さえた。
「…腕を痛めたのか?見せてみろ。」
そう言ってユリアスが手をかざす。すると淡い光がロトを包みこんだ。和らいで来る痛みに一つ息をつき辺りを見回す。
「アムル…?ユリディナ?」
「心配すんな。こっちに居るよ。」
名呼ばれアムルは身震いするユリディナに自分のマントをかけつつ返事をする。
「でも…大丈夫かな…。こんな所まで来ちまって…。」
「…ほう…?」
不意に漏れた声にロトは苦笑して振り返る。見るとユリアスがゆっくりと立ち上がった所だった。腕の痛みはすでに消えており、ロトは軽く上を回してみる。
「大体、言い出したのは貴様だろうが。このクソガキ。」
ユリアスの言葉と同時に洞窟にアムルの悲鳴が響く。ユリアスがアムルのこめかみを拳でグリグリと押さえつけたのだ。そんな様子に呆れつつ、ロトは口を開く。
「…あのさぁ…出口、探さないか?」
するとユリアスは手を離し、アムルはこめかみを押さえて座り込んだ。その時、今まで口を開かず回りの様子を見ていたユリディナが呟いた。
「なんだか…寂しい所。精霊達、怯えてる。」
そして、何かに耳を澄ます様に目を閉じる。
「でも…なんだろ?微かに…暖かい?護ってくれてる何か…。」
不意にアムルがユリディナの前に立ち、ナイフに手をかける。
「ユリディナ…下がってろ!」
同時にナイフを引き抜き岩影から襲い掛かって来た殺気に向かい切りつける。
襲い掛かってきたそれは短い断末魔と共に倒れ、間髪入れずユリアスが天井に向かってナイフを投げると何とも言いがたい悲鳴が上がり、長い植物のツタの様な物が姿を見せる。
ツタの先端にある蕾が口を開き4人に襲いかかろうとした時、一瞬早く地面を蹴ったロトの攻撃がツタを捕らえ切り落とした。
「…何なんだ?こいつら…。」
息絶えた今まで見たことに無い生き物を見つつ、アムルが呟く。
「下級妖魔だ。今までクリスタルの力で地中深く封じられていたのだが…。」
「大地震で封印が解けた…のか?」
ロトの問いにユリアスがうなずいた。
「じゃあ、この先何が出てきてもおかしくないって事か…。」
アムルがため息をつきつつ立ち上がる。
「…長くこの場に止まるのは危険だ。早く…出口を探さねばな。」
ユリアスが短く呪文を唱えると彼の持つ杖の先端に淡い光が宿り、辺りを照らし出す。その明かりを頼りに4人は奥へ向かい歩き出した。
暗い洞窟の中、杖の明かりに反射する物がある。
良く見ると壁の至る所に小さな水晶のかけらのような物があるのが判る。
そんな中に一際大きな塊があるのを見つけ、ユリディナはアムルのベストの裾を引っ張った。
アムルはユリディナが指差す方に視線を向けると少し高めの岩陰にその水晶があるのを見つけ、ナイフの柄で軽く根元を叩く。すると、それはいとも簡単に根元から折れ、アムルはユリディナに手渡した。
「【南極の風】…この地の魔力の溜まり場に精霊の力が結晶化して出きるの。」
受け取った水晶を麻の布で包みつつ、不思議そうに見ているアムルにユリディナは笑って見せる。
それから少し進んだところで、洞窟の様子が変わって来た。
所々に崩れた柱や装飾の入った壁などが姿を見せ始めたのだ。
「…なぁ、ユリアス。ここって天然の洞窟じゃなかったのか?」
暫く洞窟の様子を見ていたロトの問いに、ユリアスは小さく頷いた。
「…お前達は覚えておらぬだろう思って居たが…。ここは大地震で地中に沈んだ風の神殿だ。」
「風の神殿…。」
「そうだ。風のクリスタルがあった場所…風の守護者の居た場所だ。」
そこでユリアスは一度足を止める。そして何かを確かめる様に辺りを見回す。
「…守護者?」
ロトが戸惑いつつ問いかけると、ユリアスは目を閉じ上を見上げる。
「クリスタルにはそれぞれ守護者が居た。クリスタルの意思を人々に伝える為、それと悪しき者からクリスタルを護る為…。そしてここが…。」
ユリアスの声に反応して杖の明かりが一際輝きを増し、目の前に扉が浮かび上がる。
「クリスタルの間だ。」
軽く扉に触れると、扉は低い音と共にゆっくりと開く。すると目の前に巨大なホールが姿を現した。僅かに柱の崩れなどあったものの、そのホールはかつての姿を保ったままだった。
「以前のままだな。まさか、これほど完全な姿で残っていたとは…。」
ホールの様子にユリアスも思わずため息を漏らす。
「なあ、ユリアス。大地震の後…守護者はどうなったんだ?」
「…闇に捕らわれ封じられたのかもしれん。守護者の力が途絶えた直後、大地震が起こりクリスタルは神殿と共に地中に姿を消した。そこに暮らしていた神官や巫女諸共…な。」
アムルの問いにユリアスが答えた直後、微かな振動が響く。
『…グゥゥゥ…コンナ所ニ人間ガ入リコムトハ…死ニタイト見エル…。』
振動が次第に大きくなる。と、突如4人の背後から大きな土煙が上がった。
土煙の中に巨大な影がゆっくりと動く。土煙が晴れ姿を現したのは巨大な亀の姿をした魔物…ランドタートルだった。
「おい…なんだよ、こいつ…冗談じゃねぇぞ!?」
「アムル!危険だ!!早くこっちへ!」
突然、姿を見せたランドタートルに圧倒されるアムルにロトは剣を抜きつつ呼びかける。その声にアムルは我に返ると隣に座り込んでいたユリディナに手を貸し立ち上がらせると走り出した。
それを見たランドタートルは咆哮と共にその巨体を持ちあげる。と、2人の脇を冷気をはらんだ風が吹き抜けランドタートルを包み込んだ。不意の事に魔物は怯み、その巨体を地に下ろす。
「きゃっ…」
ランドタートルが巨体を下ろした振動で地面に僅かながら段差が生じる。思いかけず足元に生じた段差にユリディナは足を取られてしまう。すぐに体を起こすものの、そこへ影が覆いかぶさって来た。
「ユリディナ!」
咄嗟にアムルが踵を返し、魔物の巨体が地に付く間一髪のところでユリディナを抱きかかえ巨体の下をすり抜けた。そして、立ち上がろうとしてアムルは左足の痛みに膝を付く。見ると脹脛を魔物の爪に引っ掛けたらしく血が流れだしている。
「アムル!」
戻って来ようとするユリディナにアムルは声を張り上げた。
「俺に構うな!早くユリアスの所に行け!」
ユリディナは少し戸惑うが強めのアムルの口調に走り出し、その後ろ姿を見ながらアムルは小さくため息をついた。
次の瞬間、背後から風を割く様な音に振り返り目に映った物は目前に迫る巨大な爪だった。
誰ともなく叫んだアムルを呼ぶ声が轟音にかき消される。
立ち込める土煙がおさまった後には崩れた壁の前に横たわるアムルの姿があった。
それを見た瞬間、走り出そうとするユリディナをユリアスは慌てて引き止める。
「待つんだ!今行っては…。」
その言葉と同時に視界に赤いマントが翻る。見るとロトが無言のままに駆け出した所だった。
「怒りに我を忘れておるな。…ったく…あやつまで…。」
軽く舌打ちをしつつ、ユリアスは薬の入った腰のポーチを外してユリディナに手渡す。
「いいか?良く聞くんだ。私たちがあの亀の注意を引き付ける。その隙にそれを持ってアムルの元に走れ。…出来るな?」
最初は真顔で、最後に小さく笑って見せるとユリディナは頷き涙を拭く。
その様子にユリアスは軽く少女の頭を撫でつつランドタートルの方を見ると魔力を紡ぎだす。
「大丈夫、あれはそう簡単にやられはせんよ。」
ユリアスが静かに呟き紡いだ魔力が氷の力となって放たれた瞬間、ユリディナは大きく向きを変えた魔物の脇を駆け出した。
魔物の注意を引けた事に安堵しつつユリアスはすぐに辺りを見回し飛び出して行ったロトの姿を探し、すぐにランドタートルの甲羅に攻撃を阻まれ着地したロトを見つけ、彼の背後に迫った魔物の尻尾に気が付き走り出す。
「ロト!後ろだ!」
その声にロトは我に返る。目前に迫った尻尾に気が付いた瞬間に体が後ろに引っ張られ、先ほどまで自分の居た場所に巨大な溝が出来る。
「大丈夫か?」
後ろからかけられた言葉に振り返るとユリアスが微笑んで見せた。
「落ち着いたか?怒りに飲まれるな。もっと冷静になれ。」
そして、土煙に動く巨体を見上げため息をつく。
「…はて…このカメの相手、ちと厳しいな。」
……暗い闇が広がる中、ふと誰かが自分を呼んでいる事に気がつく。
そう思った瞬間、全身に激痛が走り思わずうめき声を上げる。
「アムル!」
「う…っ…いてぇ…。あー…血…出てる…。」
次第に和らいで来た痛みにアムルは指を動かしてみる。そこで目を開くと涙を浮かべたユリディナの姿が見えた。
「良かった…無理しないで。」
ユリディナは脇に置いたポーチから薬を取り出し傷の手当てを続ける。
と、そこでホールに響いた咆哮にそちらに視線を向けた。見るとユリアスの放った氷の魔力が魔物を包み込んだ所だった。
「…流石にしぶといな!あとどの位で終わると思う?」
魔物を包む吹雪を維持しつつユリアスは呟いた。額には大粒の汗が光る。
「んー…ユリアスが倒れる方が先に10ギル。」
そんなロトの答えに苦笑するが、それも時間の問題ではあった。そんな時、急激に広場内の温度が下がり始める。
「ロト!兄様!下がって!!」
ユリディナが大きく両手を掲げる。するとそれに反応する様に手に持った水晶…【南極の風】が光を放つ。
そして、それから溢れ出た冷気が一気に魔物を包み込み巨大な氷柱へと閉じ込めた。
4人が見守る中、その氷柱は砕け始め、同時にランドタートルは光に包まれて姿を消した。
暫くの沈黙ののちロトは剣を鞘に納めアムルに肩を貸して立ち上がらせる。
「まったく…無茶をする。お前達は絶対早死にするタイプだな。」
自分の所へ歩いて来る3人に呆れた笑いを見せつつユリアスはため息をついた。
---良く…ここまで辿り着いてくれた…---
静寂の中、不意に声が響く。
ユリアスはただ一点を見つめ、他の3人は辺りを見回す。と、奥の階段の先に淡い光が浮かび上がった。
「…あれが…風のクリスタル?クリスタルが喋ってるのか?」
淡い光を放つ巨大な水晶…風のクリスタルは静かに言葉を続ける。
…私の中に残った最後の光を…
最後の希望を受け取って欲しい…。
このままでは、この光も消えてしまう。
全てのバランスが崩れるのだ。
お前達は光を持つ者として選ばれた。
この世界…消してしまってはならない…。
クリスタルは一際明るい光を放ち、4人は光に包み込まれる。
4人はその光の中、風のその意思、その心を感じとり旅立つ決意をした。
…闇を振り払い、再びこの世界に光を取り戻すため…
クリスタルの光を希望に変えて…。
…光の戦士たちよ…
光と闇を分かつ者達よ…
この世界に…再び…希望を…
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